秋葉原に「ネット右翼の街」というイメージを植え付けたのは誰か

ネット右翼十五年史【9】
古谷 経衡 プロフィール

「ローゼン麻生」は事実だったか

前回記事で触れた、麻生がネット上でブレイクするきっかけとなった「麻生太郎ローゼンメイデン事件」の真相の一端は、『メカビVol.1』(講談社)における座談会「麻生太郎 直撃!ローゼンメイデン疑惑に応える」の中で、記者の質問に答える形で麻生自身が口にしている。

〈記者)あ、すいません、最後に聞きたいのですが……。若いオタクたちの間で話題になっていたのですが、麻生大臣が羽田空港のラウンジで『ローゼンメイデン(Rozen Maiden)』という漫画を読んでいたという噂が流れているのですが、本当でしょうか?

麻生)あーはっはっは。本当かもしれないな(笑)。少女漫画だろ?羽田空港で読んでいたかまでは、覚えてねぇけどなぁ。〉

麻生の発言を素直に受け止めるなら、この事件は実在したように思える。しかし、サブカルチャー批評ブログとして当時著名であった「法華狼の日記」は、次のような秀逸な論評を残している。重要部分を引用する。

〈このインタビューが出た当時は、実際に(麻生が)『ローゼンメイデン』を読んでいた証拠とされた。しかし私には、具体的な作品内容を麻生氏が避けて、はぐらかしているようにしか読めなかった。(中略)何より『ローゼンメイデン』を明確に「少女漫画」と位置づけているところに疑問がある。

ややマニアックな漫画雑誌『月刊コミックバーズ』で連載され、後に青年向け漫画雑誌『週刊ヤングジャンプ』へ移籍されたことからもわかるように、『ローゼンメイデン』はいわゆる少女漫画ではない。(中略、麻生が)ITの素晴らしさを語ろうとしてフロッピーを持ち出した時と同じ(違和感)だ。(中略)

インタビューで『ローゼンメイデン』が言及されたのは聞き手側から、それもインタビューの最後でだ。麻生氏が自ら肯定的に言及している近年の漫画は『ジパング』『沈黙の艦隊』『エリア88』『銀河英雄伝説』『加治隆介の議』といった軍事や政治を扱った漫画か、ゴルフ漫画の『インパクト』や若手の注目株を問われて答えた『テニスの王子様』みたいにスポーツを扱う漫画ばかり。

しかも『銀河英雄伝説』は女性漫画家の作品という認識であり原作者の存在を無視して戦略描写を評価、『テニスの王子様』は作者の名前を知らない。聞き手とのやりとりから見て、ややマニアックな講談社の漫画雑誌『月刊アフタヌーン』にも目を通していない。もちろんマニアックな漫画を読んでいれば偉いというわけでは全くないが、『ローゼンメイデン』が麻生氏の好みから外れた作品であることは確実と思える〉(法華狼の日記 2010年12月13日のエントリーより)

「ローゼンメイデン事件」に対する上記ブログ主の見解は「結局、麻生は漫画のことや秋葉原をよく知らない、或いは全く知らないに等しいのではないか」という一言に尽きる。秋葉原にリップサービスをし、尋常ではない力の入れようで「秋葉原の皆さん」と演説していた麻生だが、そもそも秋葉原の実相や、マンガ文化そのものについても浅い理解しか持ちえていなかった、ということになる。

 

さらに、麻生は漫画オタクを自称する一方で、児童ポルノ規制については積極的な推進派であった。しかしこの矛盾を、2ちゃんねらーを含むネット右翼は最後まで直視せず、あいまいにしたまま「俺たちの麻生」という麻生信仰へと昇華させていった。

〈考えてみれば「国民的な人気が高い」と麻生太郎氏が自民党総裁候補に急浮上してきた契機は、「マンガ文化に親しんでいてアキバ系の若者に人気がある」という都市伝説の力だった。その麻生内閣は、アキバ系どころか、言論・表現の自由が保証されている民主主義社会を「検閲・警察国家」に塗り替える危険性を持つ「単純所持を犯罪化」する児童ポルノ禁止法改正案(与党案)を提出して、「児童ポルノと疑わしきは一年以内に処分せよ」との主張を繰り広げた。〉(保坂展人 世田谷区長・元社民党衆議院議員 の日記 2009年6月27日)

〈麻生太郎政権はオタクにとって好ましいものと言えるでしょうか。私はそうは思いません。(中略)麻生太郎氏は、表現の自由を重視するという観点から、自民党、公明党による与党案について反対の意思を表明してはいません。麻生太郎氏は、一九八九年に起きた「有害コミック」騒動では、「有害コミック」を規制する立場から一九九一年に「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」を結成し、会長に就任していますが、この点について、現在に至るまで何らの弁明も説明もしていません。〉(山口貴士弁護士の日記 2008年9月3日、ちなみに山口弁護士は、当時児童ポルノ法反対派の中心人物であった)

この両者は、大前提として彼らの政治的イデオロギーに基づいた麻生評を展開しているわけだが、共通する指摘は「麻生=秋葉原」は都市伝説のたぐいであり、親和性があるどころか、本来麻生は秋葉原とは敵対する価値観を有する政治家なのではないか、ということだ。