なぜ自民党は秋葉原を「選挙必勝の聖地」と崇めるようになったか

ネット右翼十五年史【8】
古谷 経衡 プロフィール

「漏れは見てしまった…」

漫画『ローゼンメイデン』(PEACH-PIT作、幻冬舎のち集英社刊)は、引き籠りの少年と人間の言語を解するアンティーク・ドールを巡るドタバタ・バトル・コメディである。

本作の漫画本を、およそ想定年齢層とは遠くかけ離れているかに見える、齢60を過ぎた麻生太郎が羽田空港のラウンジで手にとっていた――という目撃談が2ちゃんねる上に投稿されたのは、2005年11月1日のことであった。因みに当時の麻生太郎は小泉内閣下で総務大臣を務めている。

〈漏れ(俺)は見てしまった… 羽田空港JAL・ダイヤモンドプレミアムラウンジで麻◯大臣が「ローゼンメイデン」1(巻)を読んでいた姿を…(中略)

朝六時半頃、漏れは旭川行の始発便に乗るためJALダイアモンドプレミアムラウンジでモーニング珈琲を飲みながら、サービスのパンを頬張っていた。(中略)そしてフロッピーたん(注・麻生太郎のこと)は書泉ブックタワーの包装を破って、ごく自然に珈琲を飲みながらローゼンメイデン1を読み始めたのだ。

高級背広に身を包み、足を組みながら…読書時間は20分くらいだっただろうか。フロッピーたんは自分で珈琲をお変わりしながら、じっくりと何度も1巻を読み返していた〉(括弧内筆者)

上記の目撃談は、2ちゃんねる上に瞬く間に拡散された。

 

「俺たちの麻生」

元々、「(自称)政界きっての漫画通」と呼ばれた麻生太郎。この「事件」の真相については、デマとする見解を含め諸説あるが、ともあれ麻生が漫画に特別の造詣が深い事は事実のようであり、本人もまんざらではないようで、この事件を切っ掛けに漫画・アニメの麻生、「俺たちの麻生」とまで言われるようになった。

この一件が、その後の政治家・麻生太郎のイメージを決定づけたのである。

麻生に関する一連の「政治家らしからぬ」一面を伺わせるエピソードが巷間喧伝されるにつれて、アニメ・漫画と親和性の高い「ように見える」「アキバ系」の面々、およびアニメ・漫画と親和性の高い(2000年代半ば当時の)インターネットユーザーの大半が、断固麻生支持に回っていったのは当然といえば当然の成り行きであろう。

秋葉原で『ゴルゴ13』に麻生を擬えたイラストを掲げる男性(2008年10月の総理就任後の演説で:gettyimages)

一方この時期、各マスメディアのインターネット、特に2ちゃんねるに対する論調は概ねネガティブであった。「2ちゃんねる」という固有名は決して用いず、「巨大掲示板」「匿名掲示板」とまるで隠語で呼ぶような報道の仕方が、一般的なこの時期のメディアの、ひいては日本社会の2ちゃんねる観であった。