恐竜の名前に「グ」が付くのは不正確だが残したほうがカッコいい問題

「恐竜大陸をゆく」第3回
安田 峰俊 プロフィール

メディアも研究者も読み方は一定しない

ほか、注意深い方は先ほどの名前リストを見た時点でお気付きかもしれないが、本来は同じ「龍」である音の日本語のカタカナ表記は、「ロング」だったり「ロン」だったりとバラバラである。

これらは単純に「lóng」の奥鼻音の語尾のGを発音するかしないかの違いである(中国語音で読む場合は発音しない)。

「ロング」と「ロン」のどちらで読むかは同一の恐竜の呼称ですら一定していない。中国恐竜のなかでは比較的メジャーなグアンロン(グアンロング)ですら、研究者によって呼び方がまちまちなのだ。

例として、『現代思想』(2017年8月臨時増刊号)の恐竜特集号の寄稿を確認してみよう。ここでは、北海道大学准教授の小林快次先生は「グアンロング」表記派で、国立科学博物館名誉研究員の冨田幸光先生は「グアンロン」表記派である。

もちろんメディアも同様だ。『朝日新聞』は中国の恐竜に関連した記事が比較的多いのだが、「帝龍」は「ディロング」と書くいっぽう、霊武龍は「リンウーロン」と書いている。強力な校閲体制を持つ大手新聞ですら表記がブレるほど、「ロング」「ロン」問題は決着が付いていないのだ。

(余談ながら、中国古生物学の泰斗である楊鍾健(C.C.Young)の名前も「楊(ヤン)」の語尾のGを発音して「ヤング博士」と書かれている例が少なからずある)

「ティエン・ユィ・ロン」か「ティアニュロング」か?

特に中国語のピンイン表記は、日本語のヘボン式ローマ字表記と比較しても読み方のクセが強い。そのため、ピンイン由来の中国恐竜の名前は、日本語のカタカナにすると表記が大きくブレる例が少なくない。

たとえばティアンユロング(ティアニュロング)は、中国語の発音を原音に近い形で書くと【天宇龍 tiānyǔlóng=ティエン・ユィ・ロン】、キャオワンロング(クィアオワンロング)は【橋灣龍 qiáowānlóng=チャオ・ワン・ロン】になる。

ティアンユロング(ティアニュロング)ティアンユロング(ティアニュロング)復元図 Illustration by Nobu Tamura / GFDL

生物学の世界においては、学名になった時点でその恐竜の呼称は中国語ではなく「ラテン語」とみなされるため、発音は各国の研究者が好きなようにおこなって構わないものらしい。「ティエン・ユィ・ロン」を「ティアニュロング」と読んでも別に問題はないようだ。

とはいえ、中国語由来の名前を持つ恐竜が増えて子ども向けの図鑑や博物館の恐竜展の常連になりつつある昨今の状況を考えると、さすがに「ロン」と「ロング」くらいは表記を統一したほうがいい気もする。普通に考えれば「ロン」で揃えるのが自然だろう。

ただ、「ディロング」については、語感がいかにも重々しくて強そうであり(『ガンダム』に出てきたジオングみたいだ)、たとえ実物の体長が1.6メートルのミニ恐竜だったとしても、ティラノサウルスの過去の眷属にふさわしい威厳を感じさせる。

これが「ディロン」になれば、一気に小物感が出てきてカッコよさが損なわれるではないか。語尾の「グ」は、飾りとしては大事なのだ。

学問的な問題はさておき、ディロングの呼称はいち恐竜ファンとしてはなかなか悩ましい。

参考文献:「現代中国語カタカナ表記雑感」(明木茂夫、『東方』384号) 

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