恐竜の名前に「グ」が付くのは不正確だが残したほうがカッコいい問題

「恐竜大陸をゆく」第3回
安田 峰俊 プロフィール

中国語がそのまま学名になる傾向

私が中国ライターとしての立場からディロングに感じる面白さは、なによりその呼称だ。

20世紀までの中国の恐竜は、漢字名では「〇〇龍」であっても、学名はラテン語で「〇〇サウルス(〇〇のトカゲ)」になるケースが圧倒的に多かった。たとえば、「馬門溪龍」は「マメンチサウルス」、「華陽龍」は「フアヤンゴサウルス」である。

ところが、2004年に報告されたディロングあたりから、中国語のピンイン(アルファベットを用いた中国語の発音表記)そのままで学名が付けられるケースが急増している。

以下、【帝龍 dìlóng → ディロング Dilong】のように【中国語名・ピンイン→日本語カタカナ表記・ラテン語学名】の順番で例を挙げてみよう。

冠龍 guānlóng → グアンロン(グアンロング)Guanlong
※新疆ウイグル自治区で発見されたジュラ紀末の古いティラノサウルスの仲間。

グアンロン(グアンロング)グアンロン(グアンロング)復元図 Illustration by Durbed / Wikimedia Commons

陰龍 yīnlóng → インロング Yinlong
※同じく新疆で発見されたジュラ紀末の古い角竜の仲間。ジュラ紀の角龍の仲間の化石は現時点で本種しか見つかっていない。

天宇龍 tiānyǔlóng → ティアンユロング(ティアニュロング) Tianyulong
※遼寧省で発見されたジュラ紀末のヘテロドントサウルスの仲間。羽毛を持っていたことがわかっている。

mèi →メイ Mei
※遼寧省北票市で発見された白亜紀前期のトロオドンの仲間。現代の鳥とそっくりな姿勢で眠った状態でそのまま化石化したことで有名。なお、種名は「ロン」で、寐龍(メイ・ロン)と書かれる。

霊武龍 língwǔlóng → リンウーロン Lingwulong
※寧夏回族自治区で発見された白亜紀前期のディプロドクスの仲間で、新竜脚類では最古の化石とされる。2018年7月に『ネイチャー・コミュニケーションズ』で報告され、竜脚類の進化史を覆す恐竜として世界の注目を浴びた。

橋灣龍 qiáowānlóng → キャオワンロング(クィアオワンロング) Qiaowanlong
※甘粛省で発見された白亜紀前期のブラキオサウルスの仲間。

各恐竜の非常に個性的なプロフィール(ある種類のなかでの最古の化石や、特徴的な身体的・生活的特徴を反映した化石が多い)に気を取られてしまうが、彼らはいずれも中国語名がそのまま学名になっている。

中国は恐竜の名前すらも横暴なのか(笑)

他国でもモンゴルのオヴィラプトルの仲間に「キチバチ」とチベット仏教由来の名前が付いたり、アメリカ・ユタ州の竜脚形類がナバホ語で「セイタード」と名付けられたり……と、特に近年は現地語を学名にする風潮も出ているようだが、それでも中国語の「直読み」はかなりの数にのぼる。

日本の場合、かの有名な首長竜のフタバスズキリュウすら、学名では「フタバサウルス・スズキイ(Futabasaurus suzukii)」とラテン語に改名させたほど奥ゆかしいのに、学名に自国語を押し通す中国は横暴じゃないの――? などとも思ったりもするが、いまのところそういう指摘はあまりなされていない模様だ。

中国の場合は出土数が多く、さらに研究史を塗り替えるような化石もかなり多いので、現地の研究者としては響きにインパクトがある中国語由来の学名を付けたがる傾向があるのかもしれない。