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余命三ヵ月の妻が夫に残した「ラブレター=遺言書」、その中身とは?

「争続」を回避した妻の最後の贈り物
曽根 恵子 プロフィール

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合に相続する法定割合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。

遺言書がない場合、Kさんの財産の分け方について、ご主人とKさんの姉が話し合いをして、分け方を決めた上で、遺産分割協議書を作成しなければなりません。

両親やKさんが姉とは円満な関係ではなく、普段から行き来もせず、意思の疎通が図れない状況では、残されたご主人が義姉と円満な話し合いができるとは思えません。まして、公正証書遺言によって両親の財産はすべてKさんが相続しており、姉がKさんの財産でその分を取り戻そうと考えてもおかしくはありません。

夫vs妻の姉。遺産分割協議が円満にできるはずがない

一番の気がかりは、両親から相続した実家よりも、ご主人と共有名義で購入した自宅でした。

土地も建物もKさんと夫が2分の1の割合となっていますので、Kさんの持ち分2分の1に対し姉が法定割合4分の1を主張すると、全体の8分の1が姉にも権利があります。

仮にご主人とKさんの姉が共有で自宅不動産を所有するようなことになれば、円満にいくはずもなく、絶対に避けたいところです。

 

こうした事態を避けるためには、遺言書でKさんの財産はご主人に相続してもらうように指定しておくことが必要になります。

Kさんはそうしたことがわかっていましたので、ご主人にいやな思いをさせたくないと思い、自分の命があるうちに公正証書遺言を作成しておこうと思いたたれたのでしょう。

自分の財産すべてをご主人に託したいというのがKさんの意思でした。

〔photo〕iStock

打ち合わせに来られたご主人に必要書類や段取りを伝えて、すぐに印鑑証明書と戸籍謄本を用意してもらい、公証役場にも連絡して、公正証書遺言の作成準備に取り掛かりました。

通常であれば急いでも1週間後くらいに作成できるところ、公証人の先生に無理をお願いし、翌日の夕方、公証人と公証役場の事務の方、以前もご両親の遺言つくりの証人をした当社2名の4名がKさんの病室に出向いて、Kさんにお会いしました。

急がなくてはという胸騒ぎがしたので、すべて翌日に済ませられるよう段取りしたのです。

Kさんは、ときどき咳込んでおられましたが、それでも思いの外、お元気なように見えました。このときはKさんが主役です。起き上がって内容を確認して署名され、見事に主役の役割を果たされて、公正証書遺言は完成したのです。

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命が尽きる前に「意思」を残すということ

「お願いしてよかった!」と、Kさんはとても嬉しそうな笑顔になられました。「また来ますね」と握手して、病室をあとにしました。

その翌々日。検査結果では早くて2週間くらいのこともあるという説明はあったにしても、余命いくばくもないというお医者様の診断のとおり、遺言書を作成した2日後に亡くなったとご主人から知らせが届きました。

普通ならそんなに急いで作らないのですが、話をしてなくてもKさんの気持ちがわかり、なにか急がなくてはという思いになりました。Kさんも本当にほっとした表情をされていました。

最期に不安を解消でき、満足して、安心して頂けたことは本当に良かったと思います。

 

この遺言書はKさんからご主人への最後の贈り物なのだと思いました。自分の命が尽きる前に自分の意思を残されたKさん。見事な最期だったことに感動し、遺言書が間に合って本当によかったと忘れられない出来事になりました。