2018年、ノーベル賞に最も近い5人の日本人科学者の名前

3日の化学賞に期待
佐藤 健太郎 プロフィール

「神の技術」の受賞はあり得るのか

ノーベル賞は、同じ分野への授賞が続くことは少なく、各分野に周期的に与えられる傾向がある。

最近では、化学賞が2009年、2012年、2015年に生化学分野へ授与されており、3年スパンであることを考えれば、今年はこの分野の可能性が高いと見ることができそうだ。

生化学方面で受賞が有力視されているのが、DNAの二本鎖を狙った部位で正確に切断する、「ゲノム編集」と呼ばれる技術だ。標的の遺伝子を切断して機能を失わせることもできるし、外部から望みの遺伝子を組み込むこともできる。

今までにもこうした技術はあったが、CRISPR/Cas9というシステムはスピードと正確性において段違いであり、遺伝子治療や品種改良などへの応用の可能性が一挙に広がった。

原理的には、優れた容貌や運動能力を持った「デザイナーベイビー」を作り出すようなことも考えられ、「神の技術」とまで称されている。

受賞は確実視される「CRISPR/Cas9」。問題はいつ、誰が獲るかだ photo by iStock

このCRISPR/Cas9システムの基礎となる発見をしたのが、石野良純教授(九州大学)だ。氏は1987年、ある種の細菌のDNAに、奇妙な繰り返しのパターンを持った遺伝子配列を発見。後にその配列はCRISPRと命名された。

この配列は、ウイルスのDNAを切断・破壊するためのもので、現在急発展中のゲノム編集技術はこれを応用したものなのだ。

石野の立ち位置は、2008年にノーベル化学賞を受賞した緑色蛍光タンパク質の研究(GFP)における下村脩博士の立場に似ており、その意味では受賞の可能性も十分あると思える。

ただしCRISPR/Cas9は、特許をめぐって2つのチーム間で裁判が繰り広げられた経緯もあり、授賞は先取権の争いがもう少し落ち着いてからということになるかもしれない。

 

発展途上国で活躍する「浄水粉末」

最後にもう一人、いわばダークホース的存在として、小田兼利・日本ポリグル会長の名を挙げておきたい。

社員30数人の中小企業の会長であり、言葉は悪いがまさに「大阪のおっちゃん」という雰囲気の、いわゆる研究者のイメージとは程遠い人物だ。

小田が開発したのは、汚水を瞬時に浄化できる「魔法の粉末」だ。納豆の糸は、ポリグルタミン酸という物質でできている。ここにカルシウムを加えたものを汚水に放り込んでただ混ぜるだけで、汚れの成分をからめとって沈殿するのだ。

この沈殿を濾し取るだけで、悪臭を放つ池の水が、飲用基準を満たす透明な水に早変わりするから驚く。筆者も実際に目の前で実演してもらったが、全く無味無臭のおいしい水であった。

小田はバングラデシュやソマリアなどの発展途上国でこの発明を活用し、汚水による感染症の蔓延する地域に、清潔な水を届けている。電気も複雑な機械も必要としない小田の浄水法は、こうした地域の支援にうってつけだ。

しかもこれが一時的な支援で終わらぬよう、自ら現地に乗り込んで指導を行ない、地元の人々を雇用して定着を図っている。

近年のノーベル賞は、2015年生理学・医学賞の大村智らをはじめとして、貧困の解消などに役立つ技術を顕彰する例が多くある。とすれば、数百万人に安全で清潔な水を提供し、雇用まで創出している小田の功績も、十分に賞の対象たりうるだろう。

深遠な自然原理の解明を目指した高邁な学問も重要だが、研究とは決してそれだけではない。「人類のために最も偉大な貢献をした人」というノーベル賞の理念に、小田ほど合致する研究者もないことだろう。

今年は誰が選ばれ、どのようなドラマがあるのか。本日から始まるノーベル賞の発表を、楽しみに待ちたい。