2018年、ノーベル賞に最も近い5人の日本人科学者の名前

3日の化学賞に期待
佐藤 健太郎 プロフィール

「自己組織化」の美学

水の分子は、3つの原子が「くの字型」に結びついただけのごく単純な構造。しかし、冷やすだけで美しい六角形の結晶を作る。

このように、誰に命じられたわけでもないのに、自然に秩序ある系が組み上がることを「自己組織化」と呼ぶ。生物の成長や、人間の社会の形成なども、広い意味で自己組織化といえる。

この、ある意味で神秘的とも見える現象に、分子の面から迫っているのが藤田誠教授(東京大)だ。藤田は、金属イオンと、そこに結びつく「配位子」と呼ばれる化合物を巧みに設計することで、自然に美しいかご状多面体が組み上がることを実証した。いずれも、芸術作品として鑑賞するに値する、極めて美しい物質群だ。

藤田による多面体状化合物の例

もちろん、ただ美しさを目指して研究が行なわれているのではない。その応用は多方面に及んでおり、たとえばケージの内部に閉じ込められた分子は、外部空間にあるときとは異なる反応性を示すことがわかっている。分子もまた人間と同じように、環境によって振る舞いを変えるものなのだ。

最近では、配位子によって組み上がったネットワークを利用した、画期的な分析技術を編み出した。

今まででは分析が難しかった化合物でも、この方法ではごく微量で詳しい構造が割り出せるようになる。医薬品開発や健康診断、科学捜査などに広く革命を起こしうる技術だ。

学会でその内容を初めて聞いたある研究者は、衝撃で震えが止まらなかったと証言している。自己組織化の探求という、自然現象の根本に迫るような研究から、こうした思いもよらぬ応用を引き出して見せるあたり、藤田の底知れぬ力量を示すものだろう。

何度かインタビューに伺ったが、これほど穏やかかつ理路整然と、わかりやすい表現で自らの研究を解説してくれる研究者を、筆者は他に一人も知らない。

学会でのプレゼンテーションも実に流麗であり、門外漢でも魅了されるほどだ。研究者にはすべからく美意識が必要だが、藤田のそれは群を抜いていると感じる。

 

スマホの原動力「リチウムイオン電池」の父

リチウムイオン電池」の開発者である吉野彰(旭化成名誉フェロー)も、ノーベル賞の呼び声が高い研究者の一人だ。何しろ、世界中の携帯電話やノートパソコンがリチウムイオン電池を採用しているから、その影響力は絶大だ。

不自由なくスマホが使えるのも、Li-ion(リチウムイオン)電池のおかげ photo by iStock

ノーベル賞がノーベル賞を呼ぶということがある。ノーベル賞級の大発明は、しばしば次の大発明の土台となるのだ。

リチウムイオン電池もそのケースであり、その電極には当初、白川英樹(2000年ノーベル化学賞)らの開発した、導電性高分子が用いられ、そのコンセプトが固められた。

その後、導電性高分子を炭素材料で置き換えて、危険性のある金属リチウムを生じさせない工夫が行なわれ、安全かつ高容量のリチウムイオン電池が作り出されたのだ。

現在、世界の自動車産業ではEVシフトが進んでおり、ガソリン車・ディーゼル車から電気自動車への転換が世界的に進行することとなる。

その心臓部であるリチウムイオン電池の改良は、自動車業界のみならず産業界全体の焦点ともなっている。であればこのタイミングで、開発者の吉野が顕彰を受けることは大いにありえそうだ。