無数の注射器、追う男…丸山ゴンザレスに危険が迫るスラム街潜入記

クレイジージャーニー裏日記⑫後編
丸山 ゴンザレス プロフィール

無数の注射器

声が出たか出ないかのタイミングで走り込んできた男は隣にいたディレクターの持っていたカメラを蹴りつけた。蹴り上げられたことで、ディレクターの持っていたGoProが吹っ飛んでいくのが見えた。

ディレクターに怪我はない感じ。カメラだけが吹っ飛んだだけ。

極力冷静な気持ちを維持しつつ、カメラを回収した。

周囲の状況が緊迫すればするほど、内心は冷静になっていく。気持ちとは逆にスピーディに反応した体は、すでに走り出していた。

私だけでなくディレクターと通訳さんも走っていた。打ち合わせしたわけではないが、ぴったりと息が合っていたのは、現状を鑑みて、一刻も早く立ち去りたいという気持ちがリンクしたからだろう。

何十メートルか全力ダッシュした。男が数名追いかけてくるのが見えた。さらに走った。

(だいぶ逃げられたかな……)

100メートル以上離したと思ったところで振り返ってみると、もう誰も追いかけてこなかった。少し余裕ができたことで、3人のコミュニケーションも復活してきた。 

「さっきの人、俺たちのことバカだと思ってるのか、カメラが録画されていることぐらいわかるんだよって言ってました」
「バレてたんだね」

 

悪びれもせずに返事をする。この街をこれ以上歩くのは危なすぎる。街の裏手の荒野に向けて逃げようと思った。その途中で、足元に違和感を覚えた。

「なんだこれ」

拾ってみると無数の注射器だった。

「これ……」

同行していた二人に見せると、心底うんざりした表情を浮かべた。

もう少しとどまっていたい気もしたが、一刻も早くこの街を出ないと、この二人からも襲撃されそうな気配がしたので、さらに早歩きでこの場を去ることにした。すると、住人たちがみんな同じような言葉を叫んでいるのに気づいた。いったい何を叫んでるんだろうか。

「なんか叫んでるよね、あれはなんて?」
「顔面、真っ二つにするぞって叫んでます」

通訳さんが訳してくれた。うんざりした顔で重ねる。

「スペインに住んでて、こんな脅し文句言われたことないですよ」