無数の注射器、追う男…丸山ゴンザレスに危険が迫るスラム街潜入記

クレイジージャーニー裏日記⑫後編
丸山 ゴンザレス プロフィール

あれはヤバいかも……

眼の前の女性を見ただけでも、この町にドラッグが蔓延しているのは間違いないと確信できた。こうして、街の住人の「ヤバイ息吹」を感じながら、いよいよ今回の本丸ともいうべきセクター6へと足を踏み入れていった。

トンネルを抜けると、数十メートル先から家屋が数件ずつ固まって並んでいるのがわかる。ゲートのような町の入口は特になく、(ここがセクター6なのか?)と、思わず考え込みたくなる雰囲気だ。もっと平たくいうならば、本当にただの農村のような雰囲気である。なんなら人通りすら感じられない。

少し歩くと大柄な男が立っていた。彼に話を聞くことにした。

「ここはCanada realのセクター6ですか?」
「そうだ」

ぶっきらぼうな男の言い方は、この場所が目的地であることを教えてくれるには、いささかテンションが合わないような気がしていた。男は、自分が教会の神父であると名乗った。

(神父? ずいぶんとワイルドな風貌だけどな)

 

いささかの疑問はあったが、それでも対応してくれたことに感謝して、こちらもお礼を言って立ち去ろうとした。

「この先は危ないから気をつけろ」

何度となく聞いた警告を残して男は去っていった。危ないと言われるのは、いったい何度目だろうか。とりあえず立ち止まるわけにもいかない。むしろ、こういうスラムの入り口で立ち止まっているのは、「他所者が来ていますよ」と教えているようなものなので、余計に危ないのだ。早いところ動いたほうがいい。

私とディレクター、通訳の日本人3人は、周囲から降りかかる危険を警戒しつつ歩みを進めることにした。

歩きだすとすぐに人が近寄ってくるのがわかる。Tシャツにハーフパンツ姿。身なりからして、住人で有ることは間違いない。

(あれはヤバイかも)

男の雰囲気を見て直感が叫んだ。二人にもそう伝えようとしたところで、男はすでに駆け足になって一気に距離を詰めてきた。怒りがにじみ出ていて、マジな目をしていた。こんなときでも冷静に相手を観察してしまうのは職業病かもしれないが、視界に入ったものを認識すると時間が止まった。手に注射器を持っていたのだ。

(使用中だったのかよ!)

そう思うのに十分な迫力が男にはあった。警告を促そうと振り返った瞬間、視界に入ったのは死角から走り込んでくる男の姿だった。完全に不意をつかれた。

「危ない!」