無数の注射器、追う男…丸山ゴンザレスに危険が迫るスラム街潜入記

クレイジージャーニー裏日記⑫後編

ドラッグに蝕まれる人たち

スペインの首都・マドリードの郊外にあるスラム「Canada real(カニャーダ・レアル)」にいよいよ踏み込んだ。ここまで多少の廃れ感はあったものの、どこか欧州の田舎町的な牧歌感が抜けきらない場所だった。そんな雰囲気が一変したのはセクター5の途中からだった。

道路の舗装がなくなり、土がむき出しの道が常態化してきた。それ自体は世界中のスラムで経験してきたことなので、どうということもなかった。むしろ感じたのは人種の変化である。セクター5までの住人の構成はスペイン人、モロッコ人、ルーマニア人(ロマ族)の混成といった感じだった。

それがセクター5の後半ぐらいから明らかに移民比率が増えてきた。インタビューには応じてくれなかったものの対応は紳士的……というほどでもなく、邪魔だからとっとと行けという感じ。ただ、「隣のセクター6はもっと危ないよ」との忠告はしてくれた。

 

セクター5と6はフリーウェイ(高速道路)によって、わりとはっきりと区切られていた。6に行くにはトンネルをくぐっていく必要がある。そのままゆっくりと進んでいくと路上駐車されている車があった。すぐに視界に違和感が伝わってくる。車の周囲にガラスが飛び散っていたのだ。よく見れば駐車されている場所も道路の真ん中に寄っていて、どこか不自然だ。

フロント側から後部座席を覗き込んで息を飲んだ。女性が横たわっていたのだ。

(生きているのか?)

当然の疑問が浮かぶと同時に、わずかに響く寝息が耳に入ってきたことで、事件性の有無よりも、この場所に長く居て無用のトラブルに巻き込まれないことを優先した。というのも、彼女のような動きに心当たりがあったからだ。アメリカなどで見てきたヘロイン中毒者のそれである。

究極のダウナードラッグとされるヘロインは、摂取した人たちの時間を奪う。「昏睡と熟睡の間のような雰囲気で起きている」という矛盾を具現化した奇妙な動きをする。その緩慢さは、シラフの人間からしたら時間が止まっているようにすら見えるのだ。