ロシアの壮大な野望を感じるエネルギー開発拠点「地の果て」訪問記

日本の存在感は示せるか

ロシアの野望

ヤマル半島は北極海のカラ湾とオビ湾に挟まれた長さ700キロほどの巨大な半島だ。ヤマルとはネネツ人の言葉で「地の果て」という意味だ。シベリアの大河オビ川がオビ湾に流れ込み、細長い湾となるが、毎年湾の最深部まで氷に覆われる。

もっとも気温が上がる7月、私は笹川平和財団の組織したロシア北極政策調査団の一員として、ヤマル半島の北部で進むヤマルLNG開発の最前線を訪問した。そこで見たのは、北極海航路のパイロットプロジェクトとして現実に動き出しているヤマルLNGであり、さらに北極海開発の技術革新に掛けるロシアの野望だった。

ヤマル半島上空より

ヤマルLNG開発はロシアの民間の会社NOVATEKが2010年から建設を開始した巨大プロジェクトだ。2010年の時点では、このヤマル半島北部、オビ湾から北極海への出口付近には、港も飛行場も何もない北極圏のツンドラの大地だった。

 

上空から見るとこの時期には多くの沼、湖が見える。月面のクレーターのようだ。近年新たな陥没、巨大なクレーターの形成が報告されている。温暖化の影響で地中のガスが大気中に噴出して陥没したのではないか、とも言われている。この大地の下に世界最大規模のガス田が眠っている。

モスクワを出発して3時間、「空の玄関」であるサベタ空港に着いた。この空港は2015年2月に運用開始、今はモスクワから一日平均3便の旅客機、2便の貨物機が運航している。これまでにこの空港を利用した利用者は90万人に上る。この飛行場の完成によって巨大なプロジェクトへの人員供給が可能となった。

サベタ空港

ヤマルLNGを訪問した7月12日、ちょうど三つある液化天然ガスの工場(トレイン)のうち、第二トレインにガスが注入され始めた日だった。LNG工場の排気塔から黒々とした黒煙が上がっているのが見えた。天然ガスに含まれるプロパンとブタンを燃焼させている黒煙である。プロパン、ブタンは所謂液化石油ガス・プロパンガスの原料となるが、メタン中心の天然ガスからは分離する必要がある。

それ自体価値のあるプロパン・ブタンを処理する工程は全体の一番最後であり、それが動き出すまでは2週間かかる。トレイン全体が動き出せば燃焼も終わり、黒煙も消える。我々を案内したヤマルLNG建設の責任者マナコフ専務は、黒煙は一時的なもので、環境に最大限の配慮をしていると強調した。

ヤマルLNG第二トレイン全景とプロパン、ブタンの燃焼による煙

ヤマルLNGは三つのトレインからなる。それぞれのトレインの生産量は550万トン、完全稼働すれば年間1650万トンの液化天然ガスが生産される。日本はガスのほとんどを液化天然ガスの輸入に頼っているが、ヤマルLNGは日本の輸入量の5分の1弱のガスをここだけで生産することになる。

この生産を支える巨大なガス田・サウスタンベイガス田は、ヤマル半島の海岸沿いに広がっている。このガス田の上に、ヤマルLNG工場がある。ガスの採掘現場と液化加工工場、そして輸送基地までが密接しているのがヤマルLNGプロジェクトの特徴だ。生産と加工が一体となり、効率が良い。