総攻撃は回避されたかにみえるが…混迷続ける「シリア情勢のいま」

実は、緊迫度は高まっている
村上 和巳 プロフィール

極小武装勢力が源流

そもそもISの源流は04年5月にイラクでアメリカ人技師のニコラス・エバンズ・バーグ氏を拘束し、その斬首映像をネット上に流したヨルダン人のアブ・ムサブ・ザルカウィ率いる「一神教聖戦団」と名乗ったイスラム教スンニ派武装組織である。

同組織はその後もイラクで働く外国人を人質に取り、解放条件として各国のイラク駐留部隊の撤退など政治的要求を突きつけ、受け入れなければ人質を斬首、その映像をネット上で公開することを繰り返した。

同時にイラク国内で多数派を占めるイスラム教シーア派の要人や駐留米軍などへの自爆テロも相次いで実行。04年10月にはウサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓い、アル・カーイダへの合流を宣言し、組織名を「イラク聖戦アル・カーイダ機構」と改名した。

あの痛ましい事件は、この直後に起きた。イラクの首都バグダッドを訪れた日本人旅行者の香田証生さんを誘拐し、日本政府に対して48時間以内にイラク南部のサマワに駐留する陸上自衛隊撤退を要求。日本政府の要求拒否を受けて、香田さんを斬首し、やはりその映像を公開した。

しかし、その残虐な手法はイラク国内で彼らと敵対していたイスラム教シーア派だけでなく、同じスンニ派の有力部族などからも次第に嫌悪されるようになる。スンニ派部族の中にはイラク聖戦アル・カーイダ機構に対抗する自警団も発足し、両者の間で戦闘も勃発するようになった。

 

こうしたスンニ派からの批判かわしを狙ったのか、06年初頭にはスンニ派の他の武装勢力との統一組織を自称する「ムジャーヒディーン評議会」に改名した。

だが、スンニ派部族自警団や隣国のヨルダン政府などの協力により、06年6月、米軍はバグダッド北東バクーバ近郊でザルカウィを爆殺する。同年10月、組織はムジャーヒディーン評議会を発展的に解消して「イラク・イスラム国」の樹立を宣言した。ISが「国家」を称したのはこの時が最初だ。

ただしザルカウィ爆殺以降、組織の活動は衰退していく。

イラク戦争開始後からイラク国内の戦闘やテロによる死者を集計している民間団体「イラク・ボディ・カウント」によると、イラク国内の死者は、ザルカウィ爆殺があった06年は年間2万9517人とピークだったが、以降右肩下がりとなり、2011年に4126人まで低下していることも、彼らの衰退を裏付けていると言える。

ザルカウィの死によって、「イラク・イスラム国」はほぼ命脈が尽きたはずだった。

息を吹き返すきっかけ

ところが2010年12月、アラブ・イスラム圏の一角を占める北アフリカのチュニジアでの民衆運動により、同国を23年間牛耳っていた独裁的なベン・アリ政権が崩壊した(ジャスミン革命)ことで潮目が変わる。この動きは周辺のアラブ各国に波及し、リビア、エジプトでも長期独裁政権が崩壊する、通称「アラブの春」と呼ばれる一大政治運動にまで発展した。

「アラブの春」は故ハーフェズ・アサド大統領からその次男のバッシャール・アサド大統領へと独裁政権が世襲されたシリアへも2011年3月に飛び火。同国の北部・西部で、アサド政府軍とISを含む反政府武装勢力との戦闘が激化していく。

2012年1月には元イラク・イスラム国の戦闘員だったアブ・ムハンマド・アル・ジャラニがアル・カーイダの支援を受けて前述のヌスラ戦線を創設し、アサド政権との戦闘を開始する。この頃、シリアの反政府勢力に流入した武器などがイラクに流出したことで、死に体だったISは息を吹き返すことになる。

2013年4月にISはシリアのヌスラ戦線との合併を宣言し、組織名を「イラクとシャームのイスラム国」(ISIS)へと改称した。シャームとはシリア・レバノン地域を指す現地の通称である。ただ、この合併はヌスラ戦線トップのジャラニ、アル・カーイダのトップであるアイマン・ザワヒリも否定している。

もっともこの時、ヌスラ戦線に参加していた外国人義勇兵の多くはISISに合流したとされ、これ以降、シリア北部・西部で着々と支配地域を広げ、その余勢でイラクでも攻勢を強めていく。

加えて当時のイラクではイスラム教シーア派政党出身のヌール・マリキ大統領が国内少数派のスンニ派への圧迫を強めていたことが、同じスンニ派中心の武装勢力であるISISへのシンパシーとして、その浸透に図らずも手を貸す結果となった。

ISISは14年1月、スンニ派勢力が強いイラク西部のアンバール州の州都ラマディ―、ファルージャを支配下に置き、州内の他の都市も次々と実効支配下に置いた。同年6月にサラハディン州の州都で、イラクの故サダム・フセイン大統領の故郷であるティクリート、イラク第二の都市であるニナワ州の州都モスルもISISが占領する。

そして14年6月29日、ISISの最高指導者アブ・バクル・アル・バグダーディにより、ついにイラク・シリアにまたがる「イスラム国」としての国家樹立宣言に至っている。