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総攻撃は回避されたかにみえるが…混迷続ける「シリア情勢のいま」

実は、緊迫度は高まっている

あの映像には、私も混乱した

7月末、現在内戦中のシリアで3年以上拘束されている日本人のフリージャーナリスト・安田純平氏の拘束映像が公開され、本人が「私はウマルです。韓国人です」と意味不明なことを口走ったことは記憶に新しい。

実は私自身は戦争取材も含む国際情勢もメインテーマの1つとしており、彼とは10年以上の旧知の仲だが、この映像を見た時は彼の話した内容の意味が全く分からず、かなり混乱した。

イスラム国の前身「一神教聖戦団」がイラクの首都バグダッドで内務省次官を狙った自爆テロ現場(撮影:村上和巳、2004年)

その安田氏は2004年にイラクで一時、正体不明の武装勢力に短期間拘束された経験がある。後に彼が私に語ってくれたところによると、武装勢力は彼から奪ったビデオカメラを使い、彼にパスポートを持たせて人質映像を撮っていたという。

「あんなに屈辱的なことはなかった。だが、自分のこと以上に非難を浴びるであろう日本の両親のことばかり考えていた」と吐露し、「さすがに身代金を払われてまで助かりたいとは思わなかった」とも語っていた。

 

とはいえ、今現在、何とかして自由の身になりたいと本人は思っているはずだ。しかし、丸腰で武装勢力に拘束されている以上、本意でないことを口にし、屈辱的な映像を撮られることを避けることはできないだろう。

私から見れば「クソ真面目」の言葉がぴったりの安田氏。その過去の言動、そして今置かれている状況を重ね合わせれば、彼は敢えて意味不明の内容を口にすることで『武装勢力、相手にすべからず』という最低限の抵抗を試みているのではないかと思える。

安田氏を拘束しているとみられているのは、シリア中央政府のバッシャール・アサド政権打倒を目指す「フッラース・アル・ディーン」と呼ばれる反政府武装組織だ。

当初は反政府武装組織のヌスラ戦線に拘束されたはずだったが、2017年7月にヌスラ戦線を含む4武装組織が統合して「タハリール・アル・シャーム」を結成。最近、そこからさらに「フッラース・アル・ディーン」が分離したという。

シリア情勢は混沌としたままで、安田氏の無事解放は今のところ見通せていない。

存在感を失ったIS

2011年からシリアで続く、シリア政府軍と反政府武装勢力の戦闘は、一時は反政府武装勢力に勢いがあったものの、現在ではシリア政府軍の反転攻勢が勢いを増し、シリア政府軍の実効支配は国土の60%にまで達している。

反政府武装組織は多数存在する。主な組織は前述の「タハリール・アル・シャーム」、「自由シリア軍」、「イスラム国(IS)」、少数民族クルド人の自治権確立を目指す武装組織連合体「クルド民主軍」がある。

この中で世界に最も強いインパクトを与えているのが、テロ攻撃や外国人誘拐・殺害で悪名高い「イスラム国(IS)」であろう。しかしそのISは、じつは最も栄枯盛衰が著しい組織である。

一時は日本の本州の約9割にあたるシリア北部からイラク北部にまたがる広大な地域を実効支配下に置き、2014年6月、シリア北部でシリア国内人口第6位の都市ラッカを首都と定めた建国宣言に至っている。

2015年にはシリアで拘束した日本人2人を殺害したことをまだ記憶している人もいるだろう。

しかし、2017年7月、ISの支配領域内で中核拠点となっていたイラク第2の都市・モスルが、アメリカの支援を受けたイラク政府軍の攻勢で陥落。同年10月にはISが「首都」としていたラッカも陥落し、敗走したISは現在、シリア東部でイラクに接するデリゾール県などのごく一部を支配するのみになった。

このISの勃興と衰退の理由については、実は同根だと個人的には考えている。その点について私のイラクやシリアでの取材経験や、当時から続く現地協力者からの情報などを基に改めて整理し、同時にシリア情勢全体も簡単に俯瞰してみる。