なぜ沖縄県知事選の世論調査は「あてにならない」と言われるのか

数字で測れない沖縄の論理
石戸 諭 プロフィール

世論調査を裏切った2月の選挙

さらに追い討ちをかけているのが、沖縄で取材をしている記者たちの間で「名護ショック」と呼ばれる“事件”だ。

今回も大きな争点となっている普天間基地の移設問題。移設先にあげられる辺野古がある名護市長選(2018年2月)で、現職にして移設反対派、オール沖縄の中核でもあった稲嶺進氏が、自民・公明が推した新人・渡具知武豊(とぐち・たけとよ)氏に敗北した。

この時も事前の世論調査では稲嶺氏有利と出ていた。普通の選挙と同じように考えれば、稲嶺氏のセーフティーリードである。新聞記者なら、当確を何時に打てるのか、当選を前提に紙面展開をどうするか、それを考えればいい選挙のはずだった。

ところが、蓋を開けてみると政権与党が推した渡具知氏が逆に圧勝していた。

数字に反映されなかった要素は2つある。第一に政権与党の組織力だ。

複数の関係者によると、自民党も名護市長選で世論調査を細かく重ねて、選挙戦に活用していた。公明党の支持母体、創価学会も運動を強化していた。

 

当初こそ稲嶺氏が圧倒的にリードしていたが、選挙期間中に若年層にも人気が高い小泉進次郎氏を投入するなど徐々にその差を詰め、最後の最後に差し切ったという。

そして第二に――これはより重要なのだが――住民の本音だ。

別の地元紙幹部は「自民の組織力、公明党の本気度に加え、出口でも世論調査でも、有権者が正直に答えにくい意識を抱いていることが影響している。そう考えないと読み解けない」と漏らす。

名護に限らず、例えば宜野湾市といった基地がある自治体の有権者の中には「移設に本当は賛成なんだけど言いにくい」「辺野古に反対だけど、別の争点を重視して自民系候補に投票したけど言いにくい」といった層がいる

彼らは「世論調査や出口に本音で答えない」可能性がある。だとするならば、いくら世論調査をしても、基地がある自治体に住む市民にとって世論調査への回答はあまりにセンシティブな問題で、本音を答えているかわからないということになる。

基地の移転先である名護市では、反対運動も盛んだ〔PHOTO〕Gettyimages

世論調査の数字を素直に受け取っていいのか? 名護ショック後、初の県知事選で記者たちの頭を悩ませている問題だ。

私は元毎日新聞記者で、維新旋風が吹き荒れた2012年の大阪の衆院選などを取材してきた。選挙でSNSの使用が解禁された「ネット選挙元年」の参院選では、世論調査の担当者や研究者と一緒にデータ分析の取材班を立ち上げたこともある。

ある維新の女性候補はまったくと言っていいくらい政策が語ることができない候補だった。街頭演説もまともにできず、普通に考えたら落選すると思ったが、世論調査の結果は逆だった。