スペイン・マドリードの闇を映す巨大スラムに丸山ゴンザレスが潜入!

クレイジージャーニー裏日記⑫前編

2017年の初頭、いつものように仕事場で、海外のニュース動画を見ていた。内容はヨーロッパのスラム街に暮らす人々……らしい。はっきりと断言できないのはスペイン語だったからだ。これが、その後に取材で訪れることになるマドリードの闇「Canada real(カニャーダ・レアル)」との出会いだった。

情熱の国に見つけた闇の部分

動画に映し出されたスラム街は、ダークツーリストたる自分にとって、とても魅力的に映った。もっとこのスラムのことを知りたい。どこにあるのか、いまもあるのか、アクセスできるのか……少しでも具体的な情報を知るために動画に見入った。

どうにかピックアップできたキーワードが、スペイン、マドリードだったのだ。

普段は英語をベースにして情報収集することが多いが、今回はスペイン語で調べるしかない。スペイン語圏には、英語でも情報を出してくれるサイトもあるが、すべてのニュースを拾ってくれるわけでない。

スペインに住んでいた日本人に聞いても「マドリード? 俺、バルセロナだったから」との返事が実に多い。どうやら、スペインと言っても、サグラダ・ファミリアと海沿いのほうは日本人には人気だが、それ以外の地域に関心がある同胞は少ないのかもしれない。

そうなると、手段はひとつしかない。現地に行って確かめる、だ。

「そんな程度の情報量でも取材に行くのですか?」

そう問われたときに、ジャーナリストはなんと答えるのが妥当なのだろう。批判覚悟で正直な気持ちを吐露すれば、日本からでは全く情報のない場所を訪ねる苦労と不安はある。それと同時に、知らない世界を覗ける期待と、見たことのないものにたまらなく惹きつけられる好奇心が浮き上がってくる。どちらを取るかと言われれば、後者だ。

なにより自分の直感を信じている。だから、十分な情報がなかったとしても、気になった国に行かないという選択肢はないし、むしろ、闇が深い場所ならば、スペインの闇の部分に迫ってみたくなった。

 

アフリカのついでにたどり着いた

2017年9月、別の取材でアフリカに来ていた私は、その取材が終わった後、ついでにスペインに立ち寄ってみようと思いたった。日本に比べたら近い。だったら行ってみようという感じだ。

ところが、調べてみると直行便がないらしい。イスタンブール経由で12時間はかかる便しかとれそうにない。それだと、日本から行くのとそう変わらない。普通ならあきらめて、一度日本に帰るだろう。しかし、どうしても行きたくなった。アフリカ取材に同行していた『クレイジージャーニー』のディレクターを説き伏せた。

スペイン取材は、『クレイジージャーニー』とは無関係の、私個人の仕事だ。別に『クレイジージャーニー』のスタッフを同行させる必要はないのだが、どうしても一緒に行きたいというので、仕方なく同行させることにした。

この判断が、のちにとんでもない事態に繋がっていくとは、このときは欠片も想像していなかった。

スペインの首都マドリードは美しい街で、どこをとってみても美術館のような上品さがあった。昼飯ついでに聞き込みをしようと入ったのは、町中の市場。とはいっても、「どこが市場だ?」と思ってしまうような美しい建物だった。

まずは生ハムを探す。これは誰に聞いても「絶対に食ったほうがいい」と言われるマドリードの名物だ。カウンター越しに注文した生ハムを白ワインで流し込む。たしかに美味しい。だが、美味いものを食べているだけでは取材になるはずもない。

「マドリードのスラム街ってご存知ですか?」

ワインを飲み干して、カウンターにグラスを戻すタイミングでメガネ顔の人の良さそうな店主に聞いてみた。

「カニャーダか、知ってるよ」

いきなりのヒット!
 
「どんな場所なんですか?」
「良くない場所だよ。ドラッグが売り買いされていて、危ない場所さ」
「有名なんですか?」
「マドリードの人なら知ってるだろうよ。俺は行ったことはないけどね」

このあとも市場内で聞き込みを重ねてみると、みな似たような話はしてくれるが、それ以上のことは出てこない。どうやらCanada realはマドリードの郊外にあって、麻薬取引の温床にもなっている巨大なスラムだということがわかってきた。

もともとは農道で、そこに人が住み着いてスラムが一本道に沿って形成されていった……という成り立ちがわかったぐらいだ。どうやら、地元の人でも、知っているのはその存在だけ。あまり深くは関心がないという印象だ。絶望的に情報がない。ところが、だからこそ「これはうまくいくな」と思うのが、ダークツーリストの性だ。

歌舞伎町や六本木のような歓楽街では、日々、街のどこかで薬物が取引されていて、売春や裏風俗、そのほかの犯罪も横行している。市民の目に触れることもないが、しかし、知っている人は、その実態を知っている。

裏社会を題材にしたライターをしていた頃の経験から、情報が表に流れてこない場所にこそ、ネタの鉱脈が詰まっていることは分かっている。その経験からCanada realについて、ごくごくわずかな情報しか出てこないことは、むしろ闇の深さを教えてくれるようであった。