EU離脱まで残り半年…イギリスはこうして「袋小路」に迷い込んだ

最悪のシナリオを回避するためには…
笠原 敏彦 プロフィール

ここから先はもはや「論争のブラックホール」状態となってしまうのだが、少々辛抱してお付き合い願いたい。

メイ首相がこれを受け入れられない理由として、ここで再び頭をもたげるのが、アイルランド国境管理問題である。

通常のFTAを結び、北アイルランドとアイルランドに物理的国境を設けないという条件を維持する場合、北アイルランドはEUの関税同盟に残留するしかなくなる可能性が濃厚となるからだ。

つまり、イギリス国内に二つの関税領域ができ、国内に北アイルランドとその他のイギリス地域という事実上の「経済的国境」が生まれてしまうのだ。

連合王国に楔が打ち込まれてしまうことをメイ首相は強く警戒しているようだ。

スコットランドでの独立機運が消えない中、メイ首相は連合王国の「国の形」に影響を及ぼしかねない種は排除しなければならないのである。

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政治宣言の性質

交渉の現状は袋小路に迷い込んだようにしか見えない。

しかし、押さえておきたいのは、11月中旬を目標に合意を目指しているのは、離脱の条件などを定めた「離脱協定」(国際条約)と、イギリスとEUの将来の関係の大枠を示す「政治宣言」(法的縛りなし)の二本立てであり、交渉を難航させている「二つの重要問題」はいずれも、政治宣言に関わる話だということだ。

離脱協定に関しては、イギリスのEUへの拠出金支払いなどが盛り込まれるとみられるが、すでに大筋で合意済みである。

ここでポイントとなるのが、政治宣言の性質だ。

政治宣言が必要とされるのは、離脱と将来協定が表裏一体をなすからである。

将来協定の交渉は、離脱後に続く移行期間(2020年12月末まで)に行われる予定だが、EU側は、将来協定の重要項目で合意できない場合に備え、何も決まらない場合の「最終ライン」を担保しておきたいのである。

すなわち、政治宣言は「安全弁(backstop)」なのである。

だから、拍子抜けするかもしれないが、二つの重要問題をめぐっても政治宣言の内容(ワーディング)をあいまいにすることで、離脱後の交渉に問題を先送りし、取り敢えず来年3月29日の離脱を乗り切ることは十分に可能だろう。

ただし、イギリスとEUの双方が離脱交渉を軟着陸させるという確固たる政治的意思を持ち続けることが前提であることは言うまでもない。

 

交渉以上にやっかいなこと

冒頭で指摘したが、EU離脱問題の先行きで、イギリスとEUとの交渉以上にやっかいなのはイギリス国内で何が起きるかである。

国民投票の再実施を求める声の高まりや、与党・保守党内の強行離脱派によるメイ首相のリーダーシップへの挑戦、にっちもさっちも行かなくなっての解散総選挙の可能性、EUとの合意をみた場合に最後の「関所」となる議会下院がどう出るか……。

気になる課題、どんでん返しのゲーム・チェンジャーと成り得る要因は多々ある。しかし、こうした課題の検討は、イギリスとEUの交渉の行方をもう少し見守りながら、またの機会に譲ることとしたい。

ふしぎなイギリス