EU離脱まで残り半年…イギリスはこうして「袋小路」に迷い込んだ

最悪のシナリオを回避するためには…
笠原 敏彦 プロフィール

交渉の隠れた核心部分

イギリスとEUは昨年12月、地続きであるアイルランドと英領北アイルランドの物理的な国境管理(税関、検問所)を離脱後も復活させないことで基本合意している。

これは、加盟国アイルランドの要望をくんだEU側の絶対条件であり、北アイルランド紛争の和平合意(1998年)を支える重要な柱であるから、イギリスにとっても守らざるを得ない条件である。

この大前提をクリアするために、メイ政権が導き出したのが、モノに関しては自由貿
易圏を創設するという妥協案なのである。

そして、強硬離脱派がこの妥協案に反対している理由こそが、EU離脱交渉の隠れた核心部分といえるだろう。

デービス元離脱担当相は辞任後、英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、こう語っている。

「モノの取引でイギリスをEUの規則に縛り付け、(離脱により)発言権を失うことは、AIやバイオテクノロジーなどを使う革新的なイギリス企業が登場しても、(EUの厳しい)規制により競争力を失うことを意味する」

〔PHOTO〕gettyimages

メイ首相の構想に沿えば、イギリスは永久にEUのルール作りには参加できないが、そのルールには束縛されるという状況が想定される。

これは、離脱によってEUの規制から解放され、世界各国と自由にFTAを結ぶことを想定している強硬離脱派の人々にとっては許容しがたい一線なのである。

彼らの思考を単純化すれば、グーグルやフェイスブックなどの革新的企業はなぜアメリカでばかり生まれるのか→EU域内では規制が強すぎて革新的企業が生まれないのだ →EUの規制から外れれば、産業革命を起こしたイギリスの起業家精神が復活する、というようなものである。

デービス氏の憂慮は、イギリスの潜在力を過信した誇大妄想に聞こえることだろう。

筆者はそもそも、EU離脱問題とは、離脱派が描く「仮想のユートピア」と、離脱後の経済苦境を強調する「仮想のディストピア」の空中戦だと思っている。

とは言いながらも、強硬離脱派の主張に根拠がない訳でもないことは付け加えておきたい。

 

例えば、日本ではあまり知られていないが、ロンドンの金融街シティ周辺でハイテク分野のスタートアップ企業が近年急増し、フィンテックの世界的な拠点となりつつあるというような実態もあるのだ。

「モノの自由貿易圏」をめぐる論争は、強硬離脱派にとってイギリスの将来像に関わる大問題と認識されているのである。

一方で、EU側も「モノの自由貿易圏」には反対している。その理由は、人、モノ、金、サービスの「四つの移動の自由」というEUの基本理念の下で、「いいとこ取りは許さない」という交渉原則に反するからである。

EU側にとって、最善のシナリオは今も、域内2位の経済力と最大の軍事力を誇るイギリスが何らかの経緯を経て結局はEUに残留するというものだろう。

しかし、これはもはや現実的ではなく、単一市場と関税同盟から完全に離脱し、FTAをベースにした将来協定を結ぶのが次善の策としている。