EU離脱まで残り半年…イギリスはこうして「袋小路」に迷い込んだ

最悪のシナリオを回避するためには…
笠原 敏彦 プロフィール

イギリスのメディアの「獰猛さ」

予断ではあるが、イギリスのメディアは、標的を定めたら食らいついて離さない「獰猛さ」で知られる。そのメディアが政治に持つ影響力は半端ではない。

EU国民投票の内幕に迫った本『All Out War』(Tim Shipman著)を読むと、国民投票の実施に踏み切ったキャメロン政権がいかにメディアとの闘いを主戦場と位置づけ、膨大なエネルギーを費やしたかに驚かされる。

イラク戦争失敗などで完膚なきまでに叩かれたブレア首相は、イギリス・メディアを「野生の獣(feral beast)」と呼び、メディア対策は「(首相としての)仕事の最も難しい部分だった」と振り返っている。

イギリスのメディアは、離脱交渉を動かしているメカニズムの一部であり、メイ政権は地雷を踏まないよう、細心の注意を払って交渉を進めることだろう。

 

二つの重要な問題

それでは、イギリスとEUの離脱交渉では何が焦点となっているのか? 

メイ首相は「二つの重要な問題の解決に向け真剣に取り組む必要がある」と訴えている。

二つの重要な問題とは、「アイルランド国境管理問題」と「モノの自由貿易圏創設」である。

〔PHOTO〕gettyimages

まずは、「モノの自由貿易圏」についてみていこう。

メイ首相が「唯一の実行可能な離脱計画案」として固執しているのは、今年7月に採択した離脱白書「イギリスとEUの将来の関係」である。ロンドン郊外の首相別邸「チェッカーズ」でまとめられたため、通称「チェッカーズ・プラン」と呼ばれるものだ。

その際、反発したジョンソン外相とデービス離脱担当相の重要閣僚二人が抗議の辞任をしたニュースを思い出す人もいるだろう。

この白書の主なポイントを以下の通りである。

・EUの関税同盟と単一市場から離脱し、「人の移動の自由」を終わらせる
・農産品を含むモノの貿易ではEUと共通のルール(製品の規格・基準など)を採用し、自由貿易地域を設ける=「モノの自由貿易圏」
・金融分野ではEUの「パスポート制度」の適用継続は求めず、金融を含むサービス部門、デジタル部門では独自の道を行く
・紛争解決において、EU規則の解釈に関しては欧州司法裁判所がその役割を担うが、一方の裁判所だけでは紛争を解決できないことを原則とする

この中で「モノの自由貿易圏」が大きな焦点となるのは、「アイルランド国境管理問題」と密接に関係しているからである。