大震災から7年半、事実やデータだけでは見えなかった「新しい復興」

なぜ「現場の男」は考え方を変えたのか
石戸 諭 プロフィール

立場を超えて考えるきっかけを

だからこそ、小松は釣り仲間や筑波大の五十嵐泰正(『原発事故と食』などの著作がある社会学者)と協同で「うみラボ」という活動を始めて、福島第一原発沖の海洋調査を民間でできることを証明した。

最初こそホームセンターで買った寸胴鍋に海底土を採取しようとする「素人くさい」取り組みだった。

やがて、地元水族館の専門家協力を得て、魚ごとに放射性物質のデータを細かく蓄積して、原発事故の影響が無視できるレベルに小さいということを裏付けた。

私はその活動コンセプトに賛同し、最初期の段階で彼らの調査に同行したルポを2014年5月10日の毎日新聞夕刊社会面トップで掲載した。

大阪から東京に異動してきたばかりの記者の、それも当時から関心が薄れつつあった原発事故関連の記事がトップになった理由は一つしかない。

小松たちの調査結果がニュースだったからだ。福島第一原発沖の海水なんて汚染されているんだろう。魚だってもう食べられないレベルなのだろう。そう多くの人が考えてしまうだろうが、彼らはデータで否定した。

そこで、小松はこんなことを言っている。

「実測を定期的に繰り返すことで事故を起こした東電に『市民もちゃんと測っているぞ』という姿勢を見せることになる。立場を超えいわきの海、福島の漁業を考えるきっかけを作りたい」

あのとき何を考えていたのか。お互いに今だから話せることを話そうとインタビューは始まった。

「あの頃はなんもわかっていなかった」

《うみラボは意義のある活動だし、自分にとっても大事だけど、本当にあの頃の俺はなんもわかっていなかったって思うよね。自分も被害者だ、自分こそが当事者だって思って、理解していない相手をただ攻撃していた。

まったく根拠がない誹謗中傷やデマは売り上げに影響するから、対応しないといけないって思うよ。例えば「福島産は毒だから食べたくない」って書かれたら、俺ならヘイトスピーチだって思うから反論する。

いまは「福島産は食べたくない」くらいなら、その人の選択だし一つの立場だって思う。

 

2013年とか14年の頃の自分なら「ここに積み上げたデータ見ろ。これでも食べないのか。それは差別と同じじゃないですか」って反論していただろうけど、無添加や無農薬が好きなのと同じで、判断材料のなかに原発事故が起きた産地があるっていうのなら、それは選択の自由でしょ。

市場のなかでなんとなく避けたい人がいたところで、その人を否定しても何も生まれないんだよね。

それなら、自分はいわきで生活して、いわきの食や福島の酒、食材を食べるし、楽しんでいる。こっちを伝えることが大事なんだよね。》