進化論の元祖ダーウィンとウォレス、どちらが偉い?

いい人なのに残念だったのは……
更科 功 プロフィール

なぜ、ダーウィンの方が有名なのか

以上に述べたように、発表の時期に関しては、ウォレスに分がある。それでは、なぜ、進化といえばダーウィンなのだろう。なぜ、自然選択説といえば、ダーウィンなのだろうか。

その理由の一つは、ウォレスが謙虚だったことだろう。いつもダーウィンを立てて、自分は一歩引いていた感じがする。もう一つは、ウォレスよりダーウィンの方が、社会的にはるかに有利だったことがあるだろう。何といっても、ダーウィンの家は名家だし、有力な友人もたくさんいたし、科学者としての名声もダーウィンの方がはるかに上だった。さらに、これらの説を考えついたのは、ダーウィンが先だったことも影響しているだろう。

でも、それだけが理由なら、ウォレスが可哀そうすぎる。発表はウォレスの方がダーウィンより先か同時なのに、それ以外の理由によって、評価はウォレスの方がダーウィンより下だったら、不公平すぎる。

いや、だけど……それでも、ダーウィンの業績の方が上だと、私は思う。私はウォレスが好きだし、彼の業績は素晴らしいと思うけれど、でも、やっぱり、ダーウィンには及ばない。

なぜなら、ダーウィンとウォレスでは、言っている内容が違うからだ。

現在につながるダーウィン

一番有名な自然選択説について考えてみよう。自然選択の仕組みについては、2人の考えに大きな違いはない。しかし、その先が違う。

ダーウィンは自然選択を、生物の素晴らしい特徴を生み出す、進化のもっとも重要なメカニズムと考えた。自然選択の力は凄まじく、ヒトの高度な認知能力さえ生み出した、というのがダーウィンの考えだ。

しかし、ウォレスには、自然選択がそこまで凄まじい力を持っているとは思えなかった。進化にはいくつか難しい段階があるが、そういうときは自然選択ではない別の力が働いたと、ウォレスは考えていた。たとえば、ヒトの高度な認知能力は、自然選択によって進化させることは無理だというのだ。

それでは、ヒトの認知能力を進化させることができる、自然選択ではない別の力とは、何だろうか。ウォレスはそれを、「まだ私たちが知らない宇宙の存在」あるいは「物質の世界より上位にある霊の世界」がもたらす力だと信じていた。

ウォレスは自然選択万能主義だとよくいわれるが、そうではない。自然選択と霊の世界の力という2つの力を、進化のメカニズムとして考えていたのである。ウォレスは後年、心霊主義にのめり込んでいくが、その萌芽は自然選択説を思いついたときに、すでに芽生えていたのかもしれない。

ダーウィンとウォレスの考えの違いは、初めはほんの少しだった。しかし、考えが発展していくあいだに、その違いはどんどん大きくなっていった。そして最終的に2人の考えは、遠く離れてしまった。ダーウィンは現在の科学へつながり、ウォレスは霊の世界へ行ってしまったのである。

まあ、正直に言って、とても残念だ。だって私は、ウォレスが好きだから……。

【写真】ウォレスは晩年、心霊主義に傾倒した
  晩年に傾倒していく心霊主義が、ウォレスの評価に影響を与えたのかもしえない photo by gettyimages