朝、起き抜けに聞く小鳥のさえずりは、耳に心地よく清々しいもの。そして、なんとも愛らしいものだ。
しかし、そのさえずりが、知らず知らずのうちに食用卵から孵っていたヒナの産声だったとしたらどうか。
この夏、そんな夢のような話が現実となった。ホームパーティーで使うために大量に買っておいたウズラの卵が気づけば数十個も孵化していたという珍事がSNSにアップされ、ネットニュースなどで話題になったのだ。
家に置いてあった食用のうずら…
— たかし (@taipanman7) 2018年8月30日
暑さの影響かなんやらで孵化して産まれて、パニック…
専門の飼育員に引き取りお願いした……
可愛すぎィィィィ!!! pic.twitter.com/u8iVO2H4fQ
「そういうことはよくあるようです。オス・メスの区別がつきづらいウズラの場合、市販の無精卵にときどき有精卵が混じることがあります 。
前出のニュースの場合は、孵化しかけの卵を茹でて食す『ホビロン』のために購入した卵だったそう。つまり、すべて有精卵だったため、ものすごい数のヒナが孵ってしまったようです。
有精卵は、ある程度の温度のところへ置いておくと、勝手に孵化することがあるから。親があっためるよりは時間かかるけれども。今年はすごく暑かったしね」
教えてくれたのは、立教大学の名誉教授である上田恵介氏。鳥の行動生態学の専門家だ。
上田教授は研究の一環として、ウズラの卵を孵化させ、「うっずー」と名付けて自らの研究室で飼育していたこともある。ちなみに、孵化させたウズラと教授が触れ合うほのぼのとした様子は、『うずらのじかん』というマンガのモデルにもなっている。
話を卵に戻そう。鳥の有精卵が孵化するには、温度や湿度を一定に保つことに加えて、定期的に卵を転がす「転卵」という作業が必要になる。
たとえば運搬中に卵が適度に転がされるなどして、これらの条件がたまたまうまく揃うと、親が温めなくても卵が孵化してしまうことがあるのだ。
ニワトリはヒナの段階でオス・メスを見分ける技術が確立されているので、メスだけを集めた環境で産まれる市販の卵の多くは無精卵だ。
だが、ウズラの卵の場合は無精卵に有精卵が混じる可能性が比較的高くなる。他にも、食用卵として売られているアヒル、ガチョウ、キジなどの卵も同様だ。
つまり、前述したニュースのように、朝起きてみたら、あなたが食べるつもりで買っておいた卵から、ヒヨヒヨというさえずりが聞こえてくる可能性はゼロではないわけだ。
万が一そんなことになったときのために備えて、今から鳥の基本的な習性や、ともに暮らすため注意点を知っておくほうがよいはずだ。
そこで、鳥に関するあれこれを上田教授に聞いてみることにした。
鳥との暮らし方について教えてもらう前に、まずは鳥についての豆知識から教えてもらおう。
人とともに暮らしてきた歴史がある身近な動物を「コンパニオン・アニマル(伴侶動物)」と呼ぶことがある。鳥もその一種だが、代表的なのはなんといっても犬や猫だろう。中でも犬は、人間の気持ちを察する能力が非常に優れているとされている。
ところが、上田教授によると、人間の気持ちに寄り添ってくれる犬よりも、鳥のほうが、人間に近い色彩世界で暮らしているという。