カブトガニの尾に隠されたパワー! 微小筋肉の巨大な「力」のしくみ

命を守るための筋肉の絶妙なメカニズム
杉 晴夫 プロフィール

すべての筋肉にあるアクチンとミオシン

この筋線維と張力のしくみを説明するためには、筋肉の詳しい説明が必要となるので、もっと理解したいという方は『筋肉は本当にすごい』を読んでいただければ幸いである。ここでは図を見ながら、なんとなくイメージしていただければと思う。

【図】【図】ミオシンフィラメントの配列と弾性タンパク質タイチンの働き
  図5 Aはカブトガニ筋線維筋節内のミオシンフィラメントのジグザグの配列、Bはミオシンフィラメントのジグザグ配列をもとに戻す弾性タンパク質タイチン。(『筋肉は本当にすごい』より)

筋肉は、アクチンとミオシンというタンパク質の動きが重要な鍵を握っている。この詳しいメカニズムもここでは省かせていただくが、カブトガニの尾の筋肉には、他とは違う、筋節中央でミオシンフィラメントを束ねる構造が存在しないという特徴がある。

このため筋節が著しく引き伸ばされると、ミオシンフィラメントの配列は互いに位置をずらしジグザグ状になる(図5)。この結果、筋線維は筋節長が大幅に引き伸ばされても、アクチンフィラメントと反応し力を発生するミオシンエンジンの数があまり変わらず、発生張力もあまり変わらないのである。

このジグザグになったミオシンフィラメント配列は、筋線維が弛緩し静止状態になれば、もとの規則的配列にもどる。このミオシンフィラメントの配列の回復は、筋節内に分布する弾性タンパク質、タイチンのはたらきによると考えられるが、このしくみの詳細はまだ不明である。

なお余談ながら、カブトガニは見かけより器用である。筆者の研究室の水槽にカブトガニと一緒にハマグリを入れておいたところ、一晩たつとハマグリの外観には異状がないが、中身はカブトガニに食べられて綺麗に空になっていた。

【写真】ハマグリの貝がら
  カブトガニと一緒に、水槽へ入れていたハマグリは、中身をすっかり食べられてしまっていた photo by gettyimages

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