石炭を食べて天然ガスをつくる「孝行者」の菌がいた

腐海に魅せられた女性研究者の“仰天”発見記
水品 壽孝, ブルーバックス編集部

先行研究に隠れていたヒント

「次はこのAmaM株を使って、新規なバクテリアを分離することにしました。そのバクテリアはメタン生成菌AmaM株と共生して、メトキシ芳香族化合物の一つ、トリメトキシベンゾエートを食べているようでした」

石炭は主に、植物のリグニンに由来する有機物からなり、その高分子構造内にはメトキシ芳香族化合物が含まれている。石炭やリグニンに含まれる物質のモデル化合物としてトリメトキシベンゾエートを基質として使い、さらにAmaM株を助っ人として培地に加えることで、新規のバクテリアを生えやすくして、他の雑菌から分離することを試してみたのだ。

トリメトキシベンゾエート(舌が絡まりそう……!)をエサとして用いてみたのは、どうしてですか?

「ヒントは、これに先駆けて行った研究にありました」と持丸さん。

同じグループの研究者と一緒に、堆積物中の古い有機物だけで微生物がどれぐらいのメタンを発生させるのかを調べたところ、酢酸を出すバクテリアと酢酸を食べるメタン生成菌が最後に残った。そこで、そのバクテリアと遺伝子配列が近い菌の論文にあたってみると、「トリメキシトベンゾエートを分解する」と書かれていたのだという。

研究って、地道な積み重ねの上に成り立っているんですね。

「トリメトキシベンゾエートは、石炭やリグニンと関連している化合物です。そういうものを食べさせてメタンができたら面白そうだと思い、実験を始めました。

とはいえ、AmaM株が単独でトリメトキシベンゾエートを食べるとは、当初はまったく考えていませんでした。バクテリアとセットで培養すれば、バクテリアがトリメトキシベンゾエートを分解して、さらにその分解物をAmaM株が食べてメタンを出す。その共生が証明できて、新しいバクテリアが分離できれば、それはそれで面白いかなと思っていました」

失敗は成功のもと

発見はある日、突然訪れた。

「いつも2つの瓶を同じタイミングで植え継いでいました。1つは、AmaM株をメタノールをエサとして育てているもの、もう1つは新しいバクテリアとAmaM株をトリメトキシベンゾエートをエサとして育てているもの。

ある日、この2つを間違えて逆のエサに植えてしまったんです。すぐ気づいたのですが、もったいないのでそのまま観察してみることにしました」と持丸さん。

で、どうなったんですか? ドキドキしますね。

【写真】菌の意外な行動に驚く!
  菌の意外な行動に驚く!

「培養器を覗き込んでびっくりしました。AmaM株が単独でトリメトキシベンゾエートを食べていたんです。しかも、バクテリアと共生培養するよりも、AmaM株単独で培養したほうがたくさんメタンを出していたのです。

はじめは共生だと思っていたのですが、1つのエサをめぐっての競合相手だったということです」