メタン生成菌AmaM株は、石炭に含まれるメトキシ芳香族化合物を利用し、メタンを生成する。
メタン生成菌は従来、有機物がさまざまなバクテリアによって分解・低分子化されて生成した水素・二酸化炭素や酢酸、メチル化合物を利用し、メタンを生成すると考えられていた。
しかし、持丸さんが分離したメタン生成菌AmaM株は、メタノール、メチル化合物などの単純なメチル化合物だけでなく、比較的炭素数の多いメトキシ芳香族化合物を利用して、さらには石炭そのものを利用して直接メタンを生成していたのだ。これは、それまでのメタン生成菌の生化学的・生態学的常識を根底から覆す大発見だった。
持丸さん、どんな常識をひっくり返したのですか?
「いままでは分解過程の最後の最後に残ったものを食べてメタンを生成するのがメタン生成菌だと思われていましたが、意外と大きなものをいきなり食べられるということがわかりました。それが、いままでの常識とはまったく違うところでした」
しかし、その解明にいたるまでは、一朝一夕にはいかなかった。この発見ストーリーは、持丸さんの悔しい思い出から始まる。
持丸さんが、油田の深部から採取した菌の中から「科」レベルで新しいメタン生成菌のAmaM株の分離・培養に成功。新種提案に向けて準備を進めていた最中に、ある中国人研究者がAmaM株と遺伝子が約99%一致する新科・新属・新種のメタン生成菌を分離・同定したという論文を発表し、先に名前をつけてしまったのだ。2007年のことだった。
まさしくタッチの差、ですね……。
「はい、1ヵ月ほどの遅れでした。1%程度の遺伝子の違いでは同種とみなされ、遺伝子以外で大きな違いがないと新種として提案できないんです。メタン生成菌は酸素に触れると死んでしまうので、培地の酸素を窒素で追い出したり、密閉したガラス瓶を用いたり、培養するのにすごく手間がかかります。
世の中に存在する菌の99%は培養できていないといわれていて、ちゃんと名前がついている菌はほんの1%にすぎません。この菌は、ポスドクの頃から飼っていて何年もかけてようやく分離した菌だったので、本当にガッカリしてしまって……」
その悔しさをぬぐい去るのは簡単ではないですね。ずいぶん落ち込まれたとか。
「しばらくその菌に未練タラタラで、先に進めないでいました。そんな私を見かねて、菌の分離では師匠にあたる先生が、『もうそんなヤツ、捨てちゃいなよ』と声を掛けてくださいました。
でも……、どうしても諦めきれなかった私は、『せっかく分離したんだし、何とか何かに使えないかな』と考え、密かにそのまま飼い続けることにしたんです」