本来は上下関係がないはずの『おもてなし』だが、実際には従属的な『サービス(奉仕)』になっている。しかし精神的には『おもてなし』しているつもりでいるから、対価をもらえず現場は疲弊する。そして客は自分をご主人様だと錯覚していて、サービス業従事者に感謝しない

現在の日本の『おもてなし』は、サービスとおもてなしを客に都合がいいようにごちゃまぜにしている、『一種の圧力』ではないだろうか。

「ふつう」に考えれば、店員が客に土下座したり、クライアントの無茶な納期短縮のせいで徹夜するなんて、おかしいと思うだろう。それでもなぜか、「やらなければならない」と思い込んでしまう。そこにあるのは思いやりなどといううるわしき美徳ではなく、「客の言うことは聞かねばならない」というプレッシャーだ。

「おもてなし」の本質とは

日本では店員に「いらっしゃいませ」と言われても、客は無視するのが当然とされている。しかしドイツではそれはマナー違反になるから、一時帰国中も店に入るときは店員に対して会釈で応えるようにしていた。

そこで驚いたのは、「いらっしゃいませ」と言いながら、客の方をまったく見ていない店員が多いことだ。「ありがとうございました~」なんて言いつつ、服を整理している人もいる。

接客の質が高いことを自負している国なのに、接客の多くは極めて形式的で作業的。これがもう、不思議でしょうがない。

わたしは飲食店や結婚式場、家具店など、サービス業のアルバイトを多く経験した。そこにはたいていマニュアルがあって、採用されたらまずそのマニュアルを覚えるように言われる。たとえば、注文の取り方やタブレット(おぼん)の持ち方だとかだ。会計時のポイントカードの有無の聞き方やおすすめの商品をアピールするときの文言まで、きっちりと指定された。

居酒屋はお酒も入り、リラックスもして、実はクレーマーが発生しやすい。混んでいて忙しい時に多少待つのは仕方ないことだけれど、我慢できない人が少なくないのだ Photo by iStock

そのときはなんとも思わなかったが、よく考えれば妙だ。

客にはそれぞれちがう需要がある。その差異を無視して画一的な供給をするのは、相手を喜ばせるための創意工夫である『おもてなし』から、一番離れた行為ではないか。

もちろん、最低限の立ち居振る舞いを学ぶ研修や、トラブル対処の指針は必要だろう。しかし客をなだめすかすためのマニュアル接客は、創意工夫もなければ思いやりも感じられない、ただの作業だ。

これが、日本が自慢する『おもてなし』なんだろうか?

大量のクレーマーが発生

このいびつな『おもてなし』がもたらしたのは、大量のクレーマーである。

たとえば、忘年会シーズンである年末の居酒屋でアルバイトをしていたときのこと。お客さんには申し訳ないが、とにかく人手が足りず、まともに店が回っていなかった。

それでも店員がすぐに来なければ客は何度も何度もベルを鳴らすし、飲み物が5分来ないと文句を言う。「こんなに待ったんだから値引きしろ」、イライラして「店長を出せ」と言う客もいた。店長、いま必死であなたのために焼き鳥焼いてるんですけど……。

もしも立場が逆で、自分が店長で焼き鳥を必死で焼いていたら? Photo by iStock