2013年9月7日にアルゼンチン・ブエノスアイレスにて開催された東京招致委員会。滝川クリステルの「お・も・て・な・し」が注目された Photo by Getty Images

日本の過剰なおもてなしが、クレーマーを生んでることに気づいてますか

ドイツからみればよく分かる

日本で凝り固まった就活や就職をしたくない! と22歳でドイツに向かったフリーライター・雨宮紫苑さんは、鼻息荒く移住したものの、就職はおろかアルバイトもまともにできないという悔しい体験をした。

26歳となった今はドイツに住みながら、日本に年に1度は帰国する生活を送っており、『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』という著書も刊行している。他国から日本と比べてみることで、より日本の良い点とおかしい点が浮かび上がって見えてくるのだ。

東京五輪まで泣いても笑ってもあと2年を切った。五輪の成功に、滝川クリステルがプレゼンで主張した「お・も・て・な・し」をいかにできるかどうかは重要な鍵となる。しかし雨宮さんは日本での「おもてなし」に対し、違和感をぬぐえないというのだ。

 

「へりくだりすぎる」店員

先日都内の病院で、父親の定期健康診断があった。定期健診のあとはちょっとおしゃれなランチをするのが両親の恒例行事らしく、一時帰国中のわたしはご相伴にあずかるため、いそいそと都内へと向かった。

しかし一時帰国中で予定を詰め込んでいたから、それなりに仕事が溜まっている。そこで、両親が病院に行っているあいだ、病院のそばのコーヒーチェーン店で仕事をしていることにした。

頼んだのは、ホットカフェモカのスモール。対応してくれたのは、大学生バイトと思われる背が高い男の子だった。

彼が「ホットカフェモカのラージをおひとつですね」と言うから、「スモールで」と訂正。彼は「すみません」と言いつつレジを打ち、うしろを振り返って「アイスカフェモカのスモールをお願いします」と言った。そこでわたしは「ホットでお願いします」と再び訂正。

なんだかおかしくなって、わたしは「ありますよね、そういうとき!」と言いながら笑った。

しかし彼はそこで、「大変申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げてきたのである。しかも、お金を払った後も、「申し訳ありませんでした」と再度お辞儀。その様子に、むしろわたしが戸惑ってしまった。アイスカフェモカのラージでも飲みますよ!? 怒ってないですよ!?

テイクアウトが多いカジュアルなカフェで、ちょっと注文を間違えただけで(しかも訂正できて)客はそこまで怒らないはず。それとも怒る客が多いから謝るようになっているのだろうか? Photo by iStock

日本に一時帰国してから、このようなお客様扱いにドギマギしてしまう場面がたくさんあった。

安いことがウリの居酒屋で、店員がひざまずいて注文を聞く。靴屋でサイズを言ったら、店員は小走りでバックヤードに消える。2000円のスカートを買っただけで、店の外までお見送りをされる。

気持ちはうれしいけれども、正直「そんなにへりくだらなくてもいいのに……」と思うことも多い。ドイツの接客は(良くも悪くも)人間と人間のコミュニケーションだから、客と店員の関係がもっと近い。「おつりがないんだけど、1ユーロある?」と聞かれ、「ないなぁ。じゃあチップであげるよ」「ありがとう」なんて会話をする。それに一度慣れてしまうと、日本の客と店員とのあいだにある、不自然なほどに遠い距離といびつな上下関係に戸惑ってしまうのだ。

今の「おもてなし」は圧力では?

滝川クリステルさんのスピーチにより、ふたたび注目されることとなった日本の『おもてなし』。最近はその熱も冷めてはきたが、それでも「日本のおもてなしは世界一」と自負している人は多いだろう。

事実、世界経済フォーラム(WEF)による2017年の観光競争ランキングの『Degree of customer orientation(顧客満足度を重視する度合い)』で、日本は1位に輝いている。たしかに、日本の強みのひとつではあるようだ。 

しかしわたしは、過剰にもてはやされた『おもてなし』に疑問をもっている。

本来『おもてなし』というのは、対価を求めない心配りを意味する。絶対にやらなくてはいけないものではないが、相手をより喜ばせるためにわざわざ行う創意工夫のことだ。そこには上下関係はなく、思いやりによって成り立っている

一方『サービス』というのは、ご主人様にご奉仕して対価をもらうことである。ラテン語の「奴隷」が語源で、そこには明確な上下関係があるが、そのぶん対価が発生する。

では日本の現在の『おもてなし』はどうか?