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『スッキリ!!』コメンテーターの弁護士が、傍聴席で思わず涙した本

菊池幸夫さんの「人生最高の10冊」

冒険の物語に心躍らせて

いつも近所の空き地の原っぱで遊んでばかりの、本をほとんど読まない子供でした。でも小学校の時に、唯一のめり込んだのが『宝島』です。

父の部屋はマルクスやルソー、セルバンテスなど難しそうな本だらけで、その中にたまたま見つけたのがこの本でした。読み始めたら止まらない。深夜を過ぎ、空が明るくなるまで一気読みしました。

少年が仲間とともに、埋められた財宝を探す冒険小説です。悪役ですが、ジョン・シルヴァーという一本足の海賊がすごく魅力的で、憧れていましたね。自分の子供が小さい頃にも読み聞かせした思い出深い本です。

 

中学で読んで印象的だったのが『白鯨』です。僕らって、ゴジラやウルトラマンなどの怪獣を見て育った世代なんです。だから、白鯨にはテレビの怪獣と同じような興奮がありました。怪物をエイハブ船長たちが力を合わせてやっつけるという構図も読んでいてドキドキしましたね。

高校のときの世界史の先生が非常に人間味がある面白い方で、歴史好きになりました。特にフランス革命やナポレオン、アメリカの独立戦争の時代に興味を引かれ、歴史に関する本を多く読むようになります。

実は歴史に親しんでいることは法律家の道に入った時、大いに役立ちました。現在の一般的な社会生活を規律する法律は長い間、ナポレオンが作ったナポレオン法典が基礎にありました。

また、フランス革命やアメリカの独立戦争では、人権宣言や独立宣言の中で人間の権利がうたわれ、考え方の大転換が起きます。今の仕事の根幹に関わる人権のルーツについて読書で楽しみながら学べたのは良かったですね。

大人になってから読んだ『8(エイト)』は、僕のような近世ヨーロッパの歴史大好き人間にとって、とてもワクワクする一冊。あるチェスの駒を守る修道女たちの2世紀前の過去の物語と、現代の物語が並行して進み、最後に一つにつながるという構成です。

過去のほうにはナポレオンやジョルジュ・ダントン、ロベスピエールなど有名な人物がたくさん出てきます。史実に基づいた土台の上で、「あ、こいつ酒飲みだったの!?」みたいな、歴史書を読んでいるだけでは想像できない人物像が垣間見えてきて、とても楽しくなります。

地理から歴史を語る

歴史について書かれた本の中で一番面白いと思うのが、1位に挙げているジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』です。

普通、歴史関係の本は、まずエジプトから始まり、続いてギリシャ・ローマ、中世、フランス革命、みたいな時系列の流れで進むことが多いんですが、この本は観点がまったく違います。

オランダやスペイン、イギリスなどのヨーロッパの国が、大航海時代に自分たちの覇権を広げていきましたが、では逆に、たとえば南米のインカやアステカが、なぜヨーロッパに進出しなかったのか。それができなかったことの論証を銃や病原菌、鉄をポイントで絡めながら、精緻に進めていくのが、非常に面白いんです。

2位のブローデルの『地中海』も、ジャレドと同様、視点の転換がある歴史関連の名著です。

自分が仕事で携わったある事件でこの本が少し絡み、評判も知っていたのでページを開きました。

この本では最初、歴史ではなく地中海の風土のことだけ書かれていて違和感を覚えます。でも読み進むうち、まずある土地があり、そこには独自の気候や自然があり、そこに住む人間がいて、歴史が生まれていくということが説かれます。

地理への考察を抜きにして歴史を語ることはできないことを教えてくれる、示唆に富んだ本です。

知的探究心を刺激してくれるこれらの書物がある一方で、読む人の感情を大きく動かす本もあります。3位の『スカヤグリーグ 愛の再生』はその代表。

僕はある裁判を傍聴するために移動していた電車の中で読むうちにクライマックスが来て手放せなくなり、つい傍聴席で感動的な場面を読み、不覚にも涙がこぼれるほど感動しました。裁判官には失礼だったかもしれませんが(笑)。

脳性麻痺の主人公がパソコンなどを駆使して、他人とコミュニケーションをとるようになり、交流を深めていく。愛情あふれる物語です。

弁護士になってから本格的に忙しくなると、裁判所に提出する書類や関連する判例などの参考文献など、とにかく活字に囲まれます。

それらの読み込みとは違い、面白い本に触れるのは楽しくて大切な時間。読書は人間を形成するために不可欠な作業だと僕は思います。(取材・文/佐藤太志)

▼最近読んだ一冊

「現代の知の巨人の一人が今後の世界情勢を見通した本で、非常に刺激的でした。前半で19世紀はイギリス、20世紀はアメリカの世界であったと過去を振り返る、歴史書の側面もあり、独自の視点の語りが興味深い」