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続・鹿島茂教授の「痛快!カサノヴァ講座」

タリスカー・ゴールデンアワー第18回(後編)

鹿島: おお、それはすばらしい。オーバンは美味しいシングルモルトですよね。

シマジ: たしか鹿島教授の実家は酒屋さんでしたよね。

鹿島: ええ、横須賀のほうでいまでもやっています。

ヒノ: では若い頃からお酒は嗜まれているんですか。

鹿島: まあまあ、そこそこに(笑)。

ボブ: ではスランジバー、カサノヴァ、ゴブラ!

一同: スランジバー、カサノヴァ、ゴブラ!

鹿島: これはアルコール感がそこまで強くなくて、飲みやすいですね。香りも爽やかです。

ボブ: 43度ですから、程よい強さですね。最初はちょっとニートで飲んでみて、あとはお好みで加水してください。最初は柑橘系の香りが感じられ、その奥から潮の香りとスパイスのニュアンスが現れてきます。

シマジ: うーん、これはミディアムボディで、ハチミツのような甘さもあって飲みやすい。ボブの秘密の倉庫からは何でも出てくるんだね。

ところで鹿島教授、カサノヴァが愛した女はたくさんいますが、そのなかの出色はどなたですか。

鹿島: それはシマジさんがメルマガにも書いていたアンリエットでしょう。

シマジ: やっぱりそうですか。男装の麗人アンリエットはミステリアスな美女ですよね。

鹿島: もう一つの魅力は才気です。カサノヴァが恋した多くの美女のうちでも、アンリエットの才気は群を抜いていたんじゃないでしょうか。

ヒノ: カサノヴァはどういう経緯でそのアンリエットと出会ったんですか。

鹿島: カサノヴァが旅の途中に不思議な男と女の2人連れに会うんですが、男はハンガリー人の老将校で、女は男装の麗人、アンリエットです。アンリエットは老将校の娘でもなければ妻でもなかったのですが、その3人の会話が面白いんです。

カサノヴァはアンリエットとフランス語で話すが、老将校はフランス語がわからないので2人の話す内容がまったくわからない。一方、老将校とカサノヴァはラテン語で会話するが、アンリエットはラテン語がわからないのでまるで蚊帳の外でした。

「心は恋の情熱に燃えたち、頭のなかは、その素晴らしさを思い描いている魅力ある情事のことでいっぱいだった。わたしには金はたっぷりあったし、それに全く自由の身の上だったので、それだけでも、ことを運ぶに十分だと確信した。そして二、三日もすれば、この密通も大詰めになるかと思うと、わたしの喜びは絶頂に達した」とカサノヴァは回想録に書いています。

ヒノ: まあ、凡人にはマネのできないこととはいえ、やっぱり鹿島教授のカサノヴァは読んでおかなきゃ損ですね。

シマジ: ヒノ、そうだよ。おれなんか伊勢丹サロン・ド・シマジで上下巻を20セットも売ったんだから。

鹿島: どうもありがとうございます。

ボブ: それで、結局、カサノヴァとアンリエットは結ばれたんですか?

鹿島: もちろんです。狙った獲物は必ず射止めるのがカサノヴァです。彼は得々とこう書いています。

「二人は愛し合いながら寝たが、翌朝ベッドを出るときには、さらにいっそう愛し合っていた。こうしてわたしは、つねに同じ愛情を抱いて三ヵ月を過ごしたが、たえず愛することの幸福に酔いつづけた」

でもどんな恋でもいつかは覚めるときがくるものです。

シマジ: そうなんですよね。アンリエットはカサノヴァに手紙を遺していなくなってしまうんです。そのアンリエットの手紙がまた素晴らしい。

鹿島: ヒノさん、ここを読んでみてください。

ヒノ: 「あたしたちは楽しい夢を見たのだと考えましょう。だって、こんな楽しい夢が、これほど長くつづくことなどは、まずありませんもの。三ヵ月のあいだ、まったく完全な幸福にひたれたことを誇りに思いましょう。

<中略>あたしは、あなたがどなたか存じません。しかしこの世のだれも、あたし以上にあなたを存じている方はいないと確信しております。あたしは、もう生涯恋人を持たないでしょう。でも、あなたはどうか、あたしの真似などはなさらないで下さい。あなたが今後とも恋をされ、いまひとりのアンリエットを見つけられることを願っております。さようなら」

これはもう文学です。やっぱりアンリエットは素敵な女性ですね。

鹿島: そうでしょう。この手紙だけで彼女のよさがわかるでしょう。カサノヴァはわれわれ後世の男たちに、女の究極の魅力は、美貌よりも才気にあるということを教えてくれているんです。

そして15年後、カサノヴァはアンリエットと再会するんですが…。

ボブヒノ えっ!それでどうなったんですか???

鹿島: それは本を読んでのおたのしみです(笑)。

ボブ: ぼくも『カサノヴァ』を買って続きを知りたくなりました。

シマジ: 鹿島教授、これでまた2セット売れましたね。しめしめ。

〈了〉

鹿島茂(かしま・しげる)
1949年横浜市生まれ、仏文学者。明治大学国際日本学部専任教授。1973年東京大学仏文科卒業。1978年同大学大学院人文科学研究科博士課程単位習得満期退学。共立女子大学教授などを経て、現職。専門は19世紀フランス文学。『職業別パリ風俗』で読売文学賞評論・伝記賞を受賞するなど数多くの受賞歴がある。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。『カサノヴァ:人類史上最高にモテた男の物語』をはじめ、主な著作に『職業別パリ風俗』(白水社)、『オール・アバウト・セックス』(文春文庫)、『失われたパリの復元―バルザックの時代の街を歩く―』(新潮社)など。
島地勝彦(しまじ・かつひこ)
1941年東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。柴田錬三郎、今東光、開高健などの人生相談を担当し、週刊プレイボーイを100万部雑誌に育て上げた名物編集長として知られる。現在はコラムニスト兼バーマンとして活躍中。 『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ』(いずれも講談社)、『バーカウンターは人生の勉強机である』『蘇生版 水の上を歩く? 酒場でジョーク十番勝負』(CCCメディアハウス)、『お洒落極道』(小学館)など著書多数。
ロバート・ストックウェル(通称ボブ)
MHDシングルモルト アンバサダー/ウイスキー文化研究所認定ウィスキーエキスパート。約10年間にわたりディアジオ社、グレンモーレンジィ社、他社にて、醸造から蒸留、熟成、比較テイスティングなど、シングルモルトの製法の全てを取得したスペシャリスト。4ヵ所のモルトウイスキー蒸留所で働いた経験を活かし、日本全国でシングルモルトの魅力を面白く、分かりやすく解説するセミナーを実施して活躍しています。