貧困問題に取り組んできた僕が「ケンカツ」全話を観て思ったこと

10月から生活保護基準が変わる中で
大西 連 プロフィール

現場のリアルを裏切る存在

とはいえ、リアリティをもって描かれているのは、対人援助の経験や専門性をもっているわけではなく、公務員試験に合格した新卒の若者が、いきなり生活保護の担当ケースワーカーになる、ということである。

第一話で、えみるが担当することになった生活保護利用者の一人が、自殺をしてしまうシーンが描かれる。

あまりのことにショックを隠せない主人公に対して先輩のケースワーカーが「1ケース減ってよかったじゃん」と慰める場面は、ある意味、露悪的な表現によって生活保護行政がもつ現場の過酷さを端的にあらわしているとも言える。

生活保護利用者からすれば、まったくの「新人」が、いきなり自分の今後の支援の「全権を握る」わけで、これは恐怖どころではない。

〔PHOTO〕iStock

ドラマのなかでも、主人公が生活保護利用者に対して制度的に難しいことを安易にできると請け負ってしまったり、説明不足から不信感を招いたりなど、「新人がゆえの失敗」が描かれる。

もちろん、これらは、その後の主人公の頑張りや周囲のサポートによって何とか解決に向かうわけではあるが、実際の現場で同様のことが起きた場合に不利益を被るのはただただ生活保護利用者である。

給付する金額を誤れば生活が壊れてしまうし、扶養紹介の判断を誤ればさらなるDVや虐待などの暴力被害につながったり、親族等の人間関係の断絶にもなりかねない。一つの「ミス」が、取り返しがつかない問題になってしまう可能性がある現場なのだ。

 

そして、実際には、たとえ問題のある対応をされたとしても多くの場合で、生活保護利用者は泣き寝入りをせざるをえない。金銭の支給や支援の全権を担っているケースワーカーに反論するのは勇気がいることだからだ。

ある意味で、こうした現場のリアルを裏切る存在が、ドラマにおけるえみるという主人公の姿であったのかも知れない。