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「アジア人によるハリウッド映画」メガヒットにみるアメリカ社会

『クレイジー・リッチ!』と人種の表象

予想を上回る大ヒット

9月28日(金)に、映画『クレイジー・リッチ!』が日本で公開される。これは、ケヴィン・クワン作の小説Crazy Rich Asiansをもとにした、ジョン・チュウ監督による同タイトルのロマンチック・コメディで、アメリカでは8月15日に公開された。

製作中から、近年の映画界では珍しいほどの話題となり、ロスアンジェルスでのプレミアを含む特別先行上映を含め、公開から5日間で予想を大きく上回る3520万ドルの収入を上げて、興行収入ランキング1位の座を獲得し、現在でも人気を集め続けている。

CRAZY RICH ASIANS公式サイトより

ネタバレにならないように、すでに情報が出回っている範囲で物語を紹介しよう。

ニューヨークでゲーム理論を専門とする経済学の大学教授であるレイチェル・チュウが、ボーイフレンドのニック・ヤングに誘われて、彼の故郷シンガポールを訪ねて行くと、実はニックは不動産で巨万の富を築いたヤング家の御曹司であることが判明する。

桁外れの金を湯水のように使うニックの親族や友人達の暮らしぶりに驚愕するレイチェルは、女性たちからの嫉妬や、息子を自分の世界に取り戻そうとするニックの母親エレノアからの冷たい扱いと闘いながら、自分らしくあり続けることでニックとの関係を守ろうとする。

エレノアが取り出したある切り札によって、恋人たちは大きな危機を迎えるが、レイチェルとエレノアの一騎打ちのシーンを経て、物語はエンディングに向かう。

というわけで、話の内容自体は、ありがちなロマンス映画の枠を出るわけではない。ではなぜそれがこれほどの大ヒットとなっているのか。

 

アジア人による、アジア人の映画

アメリカにおいてこの映画がこれだけの注目を集めている最大の理由は、原作小説の作者および監督、そして主要キャストのすべてが、アジア系で占められている、ということにある。この作品は、「アジアを舞台にした、アジア人についての物語を、アジア人が演じる、アジア人が作った映画」なのである。

しかもこれは、アイヴァンホー・ピクチャーズをはじめとする製作会社とワーナー・ブラザースの配給による、正真正銘のメジャー映画である。近年驚異的な勢いで独自の映画製作に取り組んでいるネットフリックスからも金銭的にはきわめて魅力的なオファーを受けたのだが、ハリウッド映画としてこの作品を世に出すことの意義にこだわった製作者たちは、それを断ってあえてワーナー・ブラザースによる映画館上映を選んだという。

メジャースタジオによる配給の映画で、アジア系の役者がひとりかふたりではなく、主要キャストすべてを占めている作品というのは、『ジョイ・ラック・クラブ』以来実に25年ぶりである。

言うまでもなく、日本でも中国でも台湾でもインドでも、そしてシンガポールでも、アジア人が作るアジア人についての映画はいくらでもある。だから、ここでいう「アジア人が演じる、アジア人が作った映画」の「アジア人」とは、アジア系アメリカ人や、英語を主な言語とする、つまり旧イギリス領や北米で生活を築いてきた、華人ディアスポラのことである。

そして、「アジア人についての物語」とは、「本土」中国から台湾や香港、東南アジアや北米など世界各地に散らばった人たちの、「チャイニーズ」としてのありかたをめぐる葛藤のドラマである。

そのような、言ってみればかなり限定的な「アジア人」の物語が、そうしたアイデンティティを共有しない人々を含む多くの聴衆に、なぜここまでの共感を呼んでいるのか。そもそも、キャストがすべてアジア人で占められていることに、なぜそれほどの意味があるのか。

それを理解するには、軽く楽しいロマンチック・コメディにミスマッチな感があるかもしれないが、アメリカにおけるアジア系の人々の歴史を振り返る必要がある。