巨大潜水空母をもってパナマ運河を攻撃せよ!日本海軍極秘作戦の真実

米軍が驚愕した潜水艦上攻撃機「晴嵐」
神立 尚紀 プロフィール

「後世に残すべき飛行機」としてスミソニアンに展示

伊四百一潜、伊四百潜、伊十四潜の3隻は、ともに昭和20年9月15日付で日本海軍から除籍され、翌昭和21(1946)年1月、佐世保から米国に向けて回航された。そして、調査と実験の末、5月28日から6月4日にかけ、ハワイ沖で海没処分とされた。

 
横須賀で米軍に接収された第一潜水隊の3隻。手前(右)から、伊四百潜、伊四百一潜、伊十四潜。接収直後で、米軍人とともに日本側乗組員の姿も見える

「伊四百型」のもう一隻の同型艦・伊四百二潜は、昭和20年7月24日に竣工したものの作戦には間に合わず、呉で空襲を受け損傷、修理中に終戦を迎えた。同年11月30日、陸海軍の解体とともに除籍され、昭和21年4月、長崎県五島列島北方の東シナ海でアメリカ軍の実艦標的として撃沈処分とされた。

米軍がこれら潜水艦の処分を急いだのは、終戦まで、連合軍がその存在にすら気づいていなかった「攻撃機搭載の超大型潜水艦」の技術情報が、すでに対立が始まっていたソ連に漏洩するのを恐れたからだと言われる。

じっさい、ソ連は、ドイツ軍が第二次大戦中に世界で初めて開発、実用化した弾道ミサイル「V2」の残存資材を用いて国産化したばかりか、改良、開発を続け、1950年代末には北米大陸を射程におさめるR-7Aミサイルを配備。弾道ミサイル開発に後れをとったアメリカにとって大きな脅威となっている。ドイツには、実現こそしなかったが、V2を潜水艦(Uボート)に搭載する計画もあったという。潜水艦に攻撃機を搭載するという発想は、いずれ弾道ミサイル搭載潜水艦に結びつくから、すでに完成している伊四百型の詳細を、アメリカが秘密にしたかったという説には信憑性がある。

1956年、アメリカ海軍は初の原子力潜水艦「ノーチラス」を完成させ、潜水艦の航続力を飛躍的に伸ばした。さらに1959年、核弾頭を搭載するポラリスミサイルを搭載する「ジョージ・ワシントン」級弾道ミサイル原子力潜水艦が就役、ここに初めて、伊四百型を上回る大型潜水艦が誕生した。対するソ連は、1960年、同じく弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦「K-19」を就役させ、以後、核兵器を抑止力と称しての国際間の睨み合いは、1989年の冷戦終結、1991年のソ連崩壊を経て、いまもなお続いている。

海没処分から59年後の2005年3月、ハワイ大学の研究チームによって、伊四百一潜の船体が発見された。続いて2009年2月、伊十四潜が、2013年8月には伊四百潜が、それぞれオアフ島南西沖の海底で発見された。さらに2015年8月、伊四百二潜が五島列島沖で発見されたニュースは記憶に新しい。

また、「晴嵐」も、2003年12月、ライト兄弟による動力飛行100周年を記念して、アメリカのワシントン・ダレス空港近くにオープンしたスミソニアン国立航空宇宙博物館新館に、「後世に残すべき飛行機」の一つとして、製造された28機のうち現存するただ1機が復元され、展示されている。

「なぜ『晴嵐』がアメリカで着目されたか。それは、世界のどこでも攻撃できるという、いまの原子力潜水艦の発想を、すでに日本海軍が具体化していたこと。そして連合軍は、その存在に終戦まで気づいていなかった。しかも、搭載される飛行機の性能たるや、従来の潜水艦に搭載されていた軽飛行機のようなチャチなものではなく、攻撃機のなかでも名機に入るような素晴らしいものであった。

潜水艦搭載の攻撃機というのは、世界のどこにもないんです。いくら零戦が優秀であったと言っても、それは『戦闘機』という範疇のなかでの話ですが、『晴嵐』は世界にこれ一つしかない。私は、こんな飛行機があり、潜水艦があったということを、一人でも多くの人に知ってほしいと思っています」

と、淺村さんは語る。

「晴嵐」によるパナマ運河攻撃、ウルシー攻撃は幻に終わったが、旧敵国であるアメリカでその価値が評価され、歴史遺産として保存されることになったのだ。

ただ、仮に作戦が成功したとしても、1隻あたり3機の搭載機という規模では、「潜水空母」に「晴嵐」まで開発するだけの手間と時間と費用、作戦で失われる人命に見合う効果があったかどうかは、いささか疑問であろう。

また、伊四百型の後裔として、破壊的な進化を遂げた現代の弾道ミサイル潜水艦に、現在、わが国の安全も脅威にさらされていることを思えば――日本が作らなくともいずれどこかの国が開発しただろうが――素直に「画期的だった」と評せない気はする。

せめて、壮大な発想と、それを実現するためのオリジナリティあふれる兵器の開発に見せた、いかにも日本的な「凝り方」と、それをつくり上げた基礎技術が、戦後日本の復興の一助になったと捉えれば、以て瞑すべし、と言えるだろうか。

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