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日本中に「暴走老人」が溢れかえるかもしれない、ヤバすぎる現実

いま、介護業界で何が起こっているのか
2020年、東京オリンピックが開幕する。

56年ぶりに日本にやってきたスポーツの祭典を一目見ようと、会場は熱狂し歓喜に酔った群衆でごったがえし、安全を守る警察官やボランティアなどはてんてこまいの状態だ。ただでさえ警備に忙しいなか、一方で高齢者の迷子や無銭飲食、万引き、暴行などが多発し、通報が鳴りやまない事態が起こる。

警察は保護・逮捕はするが、どうやら身寄りはなさそうだ。彼らは終始暴言を繰り返し、唾を吐き、暴れてまともに取り合えない。それどころか、自分が起こした事件は記憶からすっぽり抜け落ちているようだ。

2年後の日本には、行き場を失った「暴走する高齢者」たちがいたるところに溢れかえる――そんな怖ろしい未来がこの国を待ち受けているかもしれない。ルポライター・中村淳彦氏の緊急レポート。

止まない「業界内マウンティング」

先日、厚生労働省は「介護給付費等実態調査」で訪問介護の事業所数が2000年以降、初めて減少に転じたと発表。デイサービスの事業所数は2年連続の大幅な減少となった。

特に、設立5年以内、従業員数5人未満の小規模事業所の倒産が主だという。さらに同月4日、学研ホールディングスが日本政策投資銀行と共同で介護大手であるメディカル・ケア・サービスの全株式取得を発表する。

18年前に介護保険がはじまって以降、零細企業でも簡単に開設ができる訪問介護、デイサービスなどの在宅介護事業所は、高齢者人口とともに右肩上がりで増え続けた。しかし現在では、介護事業者の倒産が過去最高で推移しており、介護人材と介護報酬が小規模事業所から大規模法人にどんどん流れている渦中にある。

さらに、特別養護老人ホームに入居できない高齢者を対象に、2011年に国交省が鳴り物入りで着手した「サービス付高齢者住宅」(サ高住)の増加も凄まじく、その結果、入居率が低下し事業収益が悪化。「終の棲家」として選んだ施設が倒産し、居場所を失う高齢者が増え社会問題となった。

 

ちなみに、2018年8月末時点でサ高住は23万4322戸と飽和状態だ。当初は総量規制をかけない限り、いつまでも増え続けると危惧されていたが、訪問介護とデイサービスの減少がはじまり、その潮流は完全に変わったようだ。

国民の5人に1人が75歳以上になる「2025年問題」を目前に控えたいま、財政を逼迫させる社会保障費の削減は国の命題だ。2018年度の介護報酬の改定率は、全体では2012年以来のプラスに転じたが、訪問介護の生活支援など基本報酬が引き下げとなるサービスもあり、マイナス0.5%相当の給付適正化を行うとしている。

要するに、国は介護報酬の削減のために、合理化のしやすい大手に介護保険事業者を集約させ、小規模事業所を淘汰する方向に舵を切ったと言える。介護保険は国の事業であり、完全な自由市場ではない。報酬や加算など、制度改定によって目指すべき形に市場を誘導するというやり方だ。

現在、小規模事業所が続々と廃業・倒産しているのは、度重なる介護報酬のマイナス改定、それに「史上最も介護人材が不足している」と嘆かれる極度の人手不足が主な原因である。しかし、小規模事業所潰しに拍車がかかっている理由は、それだけではない。

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2025年までに介護人材は38~100万人足りないと言われ、現政府は介護のイメージアップに予算をつけて人材獲得にかなり力を入れている。

例えば、「介護は夢のある素晴らしい仕事」という自治体や公的機関のPR戦略、「意識高い系」の学生団体や関係者を利用したイベント、地域の小中学校での介護関係者による講演会など。純粋な職員を檀上にあげて夢とやりがいを絶叫させるという、おぞましい祭典を開催している一部の急進的な団体もいる。

低賃金で、最大限のモチベーションで働かせようとする「やりがい搾取」は、介護業界では「普通のこと」として浸透している。

介護職には素直で保守的な人が多く政策に誘導されやすい。なかば洗脳に近いやり方で「介護は人間として崇高な役割を担っている」「夢とやりがい、そして希望がある」などと言われれば、自意識が過剰に高くなり「自分たちは素晴らしい人間なのに報われないのは、社会が間違っているからだ」といった思い込みが育ってしまう。

実際に、介護職はその専門性が認められない職業のひとつだ。低賃金、重労働、人材不足の三重苦で苦しむ介護業界も、美辞麗句だけですべてを塞ぎきることができない。

そんな状況下で、政府が介護保険事業者を大規模事業所に集約させるとなれば、彼らは小規模事業所がこれまで地域の中で担ってきた役割を考えもせずに、もろ手を挙げて国の政策に賛成する。「彼らがいるから、介護の社会的評価が低いままだ」と間違った方向に思考が働きがちなのだ。

ときに“内ゲバ”と揶揄されるが、順調にまわっていない産業やコミュニティーでは、同業者同士での争いが絶えない。現場を中心に大いに荒れ、不遇にストレスや不満が溜まる介護関係者によるイジメやマウンティングの対象は、業界内の弱者である小規模事業所と、その職員に向かっていく。