海上自衛隊が南シナ海で異例の「対潜水艦戦訓練」を決行した事情

実は初めての「単独訓練」だった
半田 滋 プロフィール

中国はどう出るか?

もちろん、中国軍はこの訓練を黙って眺めていたわけではない。中国海軍の駆逐艦による護衛艦3隻への追尾が続く中で、訓練は強行された。一触即発の危険を抱えての訓練だった。

注目されるのは、中国側が潜水艦「くろしお」を探知できていたか否かである。

中国海軍は空母「遼寧」や原子力潜水艦、スホイ30戦闘機といった「強そうで派手な武器」を揃える一方、対潜水艦戦の能力は極めて低いというのが海上自衛隊幹部の一致した見方である。

逆に海上自衛隊は冷戦期から「西側の防波堤」としてソ連の潜水艦を探知し、攻撃する対潜水艦戦に力を入れてきており、潜水艦の探知は得意中の得意。現在も東京、グアム、台湾を線で結んだ「TGT(東京・グアム・台湾の頭文字)三角海域」を密かに航行しようとする中国潜水艦の「悉皆(ことごとくの意味)探知」を目標に掲げているほどだ。

 

今回、派遣された「くろしお」は、特殊なエンジンを積んで長時間潜行できる最新鋭の「そうりゅう」型潜水艦ではない。それでも「今後、海上自衛隊の潜水艦が南シナ海に潜む可能性がある」とのメッセージを送ったことになり、中国海軍にとっては脅威となるのではないだろうか。

もとより米海軍は、中国の海軍基地近くの海中に潜水艦を常時、派遣しているとみられる。現に2004年11月、石垣島周辺の日本の領海を潜水したまま通過して国連海洋法条約に違反した中国の漢級原子力潜水艦は、青島の潜水艦基地を出港した時点から、米海軍のロサンゼルス級原子力潜水艦によって1カ月にわたり、追尾された。

米海軍は、冷戦時にソ連の潜水艦に対して行ったのと同じように、中国の潜水艦を恒常的に追尾している。南シナ海も例外ではない。海南島近くの海中に米海軍の潜水艦が潜んでいるのは確実だろう。

すると中国海軍の艦艇は、米国の原子力潜水艦によって常時監視され、今後、海上自衛隊の南シナ海への進出が本格化すれば、海上自衛隊の潜水艦も意識することを与儀なくされる。潜水艦に狙われた艦艇は「死に体」と変わりなく、そうなれば中国海軍は日米の「手のひら」に乗ったも同然となる。

中国はこうした不利益を唯々諾々と受け入れるだろうか。

海上自衛隊公式サイトより

米本土が中国から遠いのに対し、日本列島は中国の目と鼻の先にある。対抗措置として、(1)日本周辺海域への中国軍艦艇の派遣を激増させる、(2)尖閣諸島をめぐる東シナ海の緊張状態をあえて高める、などの手段に踏み切ることが考えられる。

小野寺防衛相の会見をみる限り、日本政府が覚悟を決めているとは到底思えない。

だが、海上自衛隊は17年6月、護衛艦「いずも」「さざなみ」と米空母「ロナルド・レーガン」との日米共同訓練を初めて南シナ海で行ったのを皮切りに、18年3月にも護衛艦「いせ」と米空母「カール・ビンソン」が、やはり南シナ海での日米共同訓練に踏み切っている。

これらの日米共同訓練を南シナ海進出の足掛かりとし、その延長線上にあるのが今回、海上自衛隊が単独で行った対潜水艦戦訓練である。

「専守防衛」を踏み越えた訓練を続けるならば、いずれ南シナ海の緊張は高まり、ひいては日本の安全保障に直接影響を及ぼす事態を呼び込みかねない。

政府は南シナ海で行った訓練の意図を正直に語り、世論の審判を受けるべきである。

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