元麻薬密売人の獄中告白「私をスパイとして使ったマトリを許せない」

知られざる麻薬取締捜査の実態
栗田 シメイ

元麻薬売人の告白

清水則史被告、51歳。現在、東京拘置所に収監中のこの男こそが、奥村が逃走を手助けしたという「S」その人である。

元々麻薬の密売に携わっていた清水は、2015年頃、台湾の売人仲間から奥村を紹介されたという。「台湾の大物売人だったその人とは親子の盃を交わしていたので、その人に『奥村に協力してやれ』と言われると、断れなかった」とその「出会い」について明かす。

元麻薬密売人の清水則史氏

清水によると、奥村は「過去の麻薬密売には目をつむる。そのかわり、私が狙っている捜査対象者に接触し、密売の話を持ちかけてほしい。清水さんに密輸してもらって、捜査対象者が覚せい剤を手にしたところに押しかけて逮捕する」という話を持ち掛けてきたという。

過去に売人をしていた清水は、断ると自分が逮捕されるかもしれないと思い、断り切れずにこれを受けた。以降、約2年間で実に20回以上も麻取の捜査に関わった。密輸をしたのは6件、実際に3度の取引を行ったという。

具体的な覚せい剤密輸の方法は全て奥村の指示のもと行い、麻取の捜査に協力してきた。清水は麻取の捜査方法についてこう言及する。

「麻取の捜査方法は、売人を使わなければ成り立たない。あくまで『スパイありき』なんです。Sの売人は、自分の麻薬取引には目をつむってもらっているので、持ちつ持たれつの関係と思われがちですが、当時の私は覚醒剤取引きからは手を引いていた。本当は、もう覚醒剤を取り扱う仕事はしたくなくて、何度も断っていたんです」

 

「麻薬捜査官に心酔していました」

清水は当初、警察に逮捕されるリスクを恐れ、麻取への捜査協力を渋っていたが、奥村と何度か接触していくうちに「この人のために協力しよう」という気持ちが芽生えたという。

「奥村は適度な距離感を保ちつつも、常に私の生活のことを気にかけてくれていた。捜査に協力した案件が成功すると、一緒に喜んでくれた。いつの間にか仲間意識が生まれていたんです」

奥村の人心掌握術にハマったのだろうか。清水は会うたびに奥村に心酔し、ますます危険な捜査に協力するようになる。

しかし、おとり捜査に協力すぎた清水は、覚せい剤密輸の容疑で警察に逮捕されてしまう。おとり捜査のための清水の荷物が税関検査で引っかかり、覚せい剤密輸が警察にバレたのだ。

覚せい剤を含んだ荷物が手元に届かず不審がった清水は、奥村に連絡。奥村は、警察の捜査情報を入手し、清水に警察の捜査が及んでいることを伝え、逃走を手助けした。しかし、2016年8月、清水は覚醒剤取締法違反で警察に逮捕された。警察は清水が所有していた携帯電話から奥村との関係も確認し、その結果、犯人隠避で奥村も逮捕となったのだ。

逮捕されてしまった清水だが、逮捕後の公判、取り調べの中でも、奥村のことを全く話さず、むしろ守ろうとさえとしていた。

だが、清水逮捕後の4ヵ月後、2016年12月に奥村も逮捕されたことで、両者の関係に決定的なヒビが入った。自身の裁判で清水との関係を問われた奥村が、「清水とは金銭授与の関係だった」と述べたことが、清水の逆鱗に触れたのだ。

清水の弁を聞こう。

「奥村からお金をもらったことは一度もないし、そんなドライな関係で付き合ってはいなかった。裏切られた気持ちでいっぱいだった」

声を荒らげて、さらにこう続ける。

「私が当初、奥村のことを一切口外しなかったのは、奥村と私との間にはイチ捜査官とSという関係以上の信頼関係を感じていたからです。私は逮捕されてもなお、奥村という人間を仲間だと考えていたし、彼の人間性に心酔していた。

麻薬を取り扱う人間というのは、人を見極める"鼻"が効く。奥村は付き合いの中で、私を不快にさせるような嫌な部分を一切出さなかった。基本的に言葉遣いも丁寧で、常に年上の私を立てていた。

更にカタギの仕事をしていた私を再びこの仕事に誘いこむ際も、『私が(清水の協力で)実績を挙げたら、真っ当な仕事を紹介する』と繰り返し説得してきました。一緒にいるうちに、情に厚く、仕事熱心な男という印象が強まり、次第に奥村に心を開くようになったし、『奥村のためなら』と私自身の気持ちも変わっていきました」

清水は次第に奥村にのめりこんだ。奥村からの指示を受けて覚せい剤の密輸をし、捜査対象者に手渡して、覚醒剤所持で奥村に逮捕させるというおとり捜査を何度も行った。

ここでポイントになるのは、奥村が清水に与えた、社会的な存在意義だった。

「大袈裟でなく、私は奥村のもとで、麻取の捜査の一員になったいう自負がありました。信じられない人もいるかもしれませんが、私と奥村は捜査情報や麻薬の密輸の方法などを共有していた運命共同体でした。捜査に貢献することで、麻取が、ひいては私が社会に貢献できると奥村に説かれた。そこにやりがいを感じていた。

私にスパイという感覚を持たせることなく、『麻取の一員である』という気持ちにさせたところが、奥村の人心掌握術の絶対的かつ本質的な凄さでした。だからこそ、彼は私以外のたくさんのSを使いこなせたと思いますし、本来許されないはずの麻薬取引という行為に対しても、私自身、"社会貢献"という気持ちすら感じていたんだと思います」