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元麻薬密売人の獄中告白「私をスパイとして使ったマトリを許せない」

知られざる麻薬取締捜査の実態

麻薬捜査を専門とする厚生労働省の麻薬取締部(通称・麻取)は、極めて秘匿性の高い組織だ。司法警察職員として逮捕権を持ち、危険な任務を遂行するために、拳銃の携帯も認められている。合法的におとり捜査ができるのも、その特徴の一つだ。

時に情報提供者やスパイを使いこなし、薬物の専門家として、不正使用、横流し、盗難等の監視・捜査を行うことを目的としている。が、その捜査方法が表に出ることはほとんどない。

だが、そんな麻取が激震する事件が起こってしまった。麻取のエースといわれた、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部・奥村憲博取締官(46・当時)が逮捕されたのだ。

罪状は「虚偽有印公文書作成・同行使容疑」。S(スパイの略称)として囲っていた麻薬の売人を警察の捜査から逃げるよう手助けし、犯人隠避をする目的で虚偽の供述調書を作成したのだ。

その奥村が逮捕されるきっかけは、奥村がSとして利用していた元麻薬密売人の清水則史被告が覚せい剤密輸の疑い(覚醒剤取締法違反)で逮捕されたことによる。

本件の発覚により、これまでベールに包まれていた麻取の捜査手法の一部が明らかになった。この事件を追うと、麻取という組織の内側の実態、また麻取の捜査手法が見えてくるのだ。

 

功を焦った元エース捜査官

「今回の事件は衝撃的でした。私も40年近く捜査官として現場にいましたが、ここまでヒドい事件は記憶にありません。奥村の逮捕が麻取に与える影響は甚大なものでしょう」

こう話すのは、元厚生労働省関関東北信越厚生局・麻薬取締部捜査一課長の小林潔氏だ。小林氏は、1980年にコンサートのために来日していたポール・マッカトニーを、大麻所持で現行犯逮捕したこともある大物捜査員で、奥村の元上司でもある。

小林氏が”衝撃の事件”という、麻取のエース・奥村逮捕のあらましを説明しよう。

奥村が逮捕されたのは、2016年の8月に、自身が“S”として囲っていた覚醒剤の売人に警察の捜査情報を流し、その逃走を手助けしたためだ。同年1月と4月にもこの売人の調書を偽造したことが発覚、12月に虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで逮捕された(なお、当件で奥村は17年4月に執行猶予付きの有罪判決を受けていることは先に述べておきたい。)

奥村が勤務していた麻薬取締部横浜分室 Photo by 濱崎慎治

麻取を震撼させたこの事件。先出の小林氏は、奥村が事件を起こした背景についてこう分析する。

麻取の捜査方法も今と昔では大きく異なります。時代は変わったんです。当然、捜査の一貫だとしても、法を犯すような行為は許されません。今は、一般の方から見てもアウトだという捜査は、決して認められない時代になった。

今回の一件で、OB達は『これまで積み重ねてきた麻取の実績がパーになった。顔を潰された』と激怒しています。私は新人時代の奥村を知っていますが、一匹狼気質の捜査官で、エリート意識が高い男でした。端的にいえば、周囲からの”優秀”という期待に応えるため、功を焦り、超えてはいけない線を超えてしまったといえるでしょう」

さらに筆者は、奥村の”S”だった、元売人にも話を聞いた。彼こそが、奥村が逃走を手助けした”S”である。