インフレ目標不達の「日銀量的緩和」そろそろ後始末に入る時期

「景気後退期」に備え金利操作回帰を
竹中 正治 プロフィール

物価目標が頓挫した原因

この点について日銀自身のレポート「目で見る金融緩和の『総括的な検証』と『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』」(2016年9月21日)の中で、予想物価上昇率の推計値の推移を示している。

それによると2012年まで前年比でマイナスだった数値が14年第1四半期には1.3~1.4%まで上昇した。ところが、15年から16年にかけて再びゼロ%近傍まで低下してしまった。

何が起こったのか解説しよう。金融市場ではアベノミクス宣言と同時に、インフレ率上昇という政策シナリオに乗り、「円売り・日本株買いで儲けよう」というの動きが海外投資家を中心に広がった。

日本のインフレ率アップは円の購買力低下、すなわち円安である。また日銀の大規模な長期国債の購入で長期国債利回りも下がれば、内外金利の変化も円安に作用する。円安で企業利益が増加することも経験済みだ。

2012年まで日本株は割安で過度な円高だったこともあり、2013~14年は市場参加者のポジションの反転で劇的な円安、株高となった。これは金融市場の参加者の行動特性が、常に先を予想して行動するフォワード・ルッキングなものだから実現したとも言える。

ところが実体経済の主要な主体(企業経営者、労働者、消費者)は、むしろバックワードルッキングな行動特性が強く、日銀が物価目標2%を掲げたからといって、ベースアップの目標が2%+αになるという様なことは起こらなかった。

2014年4月に実施された消費税率の引き上げも、賃金の上昇がそれに追いつかなかったので消費需要は冷えた。名目賃金の相応の上昇を伴わない物価上昇が持続するはずがない。

その結果、当初2年で達成するとした物価目標は2016年になっても実現せず、消費者物価指数の伸び率は前年比マイナスに戻ってしまった。

それを受けて市場参加者の円売り・日本株買いのポジションに巻き戻しが起こり、当時の新興国を中心とした世界景気の鈍化も加わり、ドル円相場は1ドル=100円前後、株価は日経平均1万5000円前後まで下がったのだ。

 

以上の経緯を振り返る限り、大規模な国債購入と2%物価目標へのコミットメントで期待インフレ率を押し上げるという第3の経路は、一時的には成功したものの、中長期には効果を持続せずに終わったと結論するしかなかろう。

すなわち3つに分類される量的・質的金融緩和の経路のうち、1)と2)の長期金利低下と円安による経路は持続的に働いているが、「期待」に依存したアナウンスメント効果(偽薬効果)は剥落している。

もう一度図表1をご覧頂きたい。大雑把に見ても、日銀の国債買取りによるベースマネーの増加額(前年同月比)と消費者物価指数の上昇の間に相関関係があったのは2013~14年だけであり、その後は無相関や逆相関にさえなっていることがわかるだろう。

消費者物価の変動を説明する多変数を使用した各種の回帰分析の結果も同様であり、偽薬効果が物価上昇に働いたのは、ほぼ2013~14年だけだったことを示している。

私が「原理主義的なリフレ派」と呼ぶ方々の多くは、当初は「インフレ・デフレは貨幣的な現象であり、ゼロ金利下でも金融政策で対処できる」と言い切り、大変勇ましかった。

しかし2016年以降は、インフレ目標が達成できないことの理由として、「賃金が抑制されている」「国際資源価格の下落が影響している」「財政政策面での援護が必要」というように次第に主張を修正するようになった。

要するにインフレ・デフレは100%貨幣現象ではなく、賃金、資源価格、財政政策と言った非金融的な要因に依存することが、リフレ派の間でも認知されるようになった。