2017年6月の日曜日。東京駅近くにあるオフィスビルの会議室に、中高年の男女約200人が吸い込まれるように入っていった。独身の子どもに代わって親が結婚相手を探す「代理婚活」の交流会。主役はこの場にはいない息子と娘だ。
事前に参加者の子どもの職業、学歴、身長と体重、転勤の有無、相手に求める条件などが書かれたリストが配られているため、気に入った人の席を順番に回っていく。
「初めまして」「すてきな娘さんですね」。向き合うと、あいさつもそこそこにお互いの子どもの写真とより詳しいプロフィルが書かれた身上書を見せ合い始めた。
交流会の主催は住宅メーカー「ミサワホーム」(東京)の子会社。数年前に親の代理婚活を手掛ける「良縁の会プロジェクト」を始めた。
今年8月末現在、首都圏のほか北海道から福岡まで約180回開催し、延べ3600人が参加。報告があっただけでも50組以上が成婚した。交流会の参加費1万円程度を負担すれば、入会金や成婚料はかからない。
担当者は「結婚後、家の購入やリフォームのときに親会社を選択肢に入れてもらうことが主な目的。ボランティアのようにやっている」と説明する。
この日の交流会に参加した人の子どもの年齢は、男性25~51歳、女性24~45歳。両親そろっての参加も多く、北海道や九州から飛行機で駆けつけた人もいた。
プロジェクトのコーディネーター小林美智子さん(※筆者注:彼女のみ実名)は「今は結婚相手と出会うのが大変な時代。親はわが子の性格をよく理解しているので、出会いの可能性を広げることができる」と解説する。
親同士が合意すれば、写真と身上書を交換して持ち帰り、双方の子どもが希望したらお見合いをするシステム。目の前で繰り広げられた光景は、普通の婚活パーティーよりもはるかにシビアで単刀直入なやりとりだった。
息子の相手を探す父親が「年収は700万円ですが、転勤があります」と打ち明けると、相手の母親は「一人娘なので東京以外に嫁がせるつもりはありません」と身上書の交換を拒んだ。
東大卒の国家公務員の息子を持つ母親の前には女性の親の行列ができていた。まるでオーディションのように「うちの子は料理が得意なんです」「趣味が合うはず」と次々とアピールをしていく。
一方、30代の長男の結婚相手を探す父親は、「こういう場所では高卒だとなかなか目に留めてもらえない」とこぼした。
「孫の顔が見たい」という思いも直球だ。72歳の母親は、48歳の息子の花嫁候補を20代に絞り、リストを見ながら候補者の席をくまなく回っていた。年の差を理由に断られ続けたが「息子は若く見えるし、若い女性なら孫を2人は産めるから」とめげない。
本当に、大人の男女が結婚という人生の決断を親任せにしているのだろうか。ふと、机の上に置かれた写真を見ると、スーツ姿のまじめそうな40歳前後の男性が桜をバックにほほえんでいた。
母親は「この会のために、息子と場所を相談して撮影しました。彼は『母さんが選んだ人なら間違いない』と信頼してくれています」と教えてくれた。交流会の参加には、事前に子どもの了解を取ることが条件になっているという。
親同士はあくまで「橋渡し」で、ここからが勝負。参加者たちは、交換した資料を大切そうに抱えて家路に就いた。