「新潮45」はなぜ杉田水脈を擁護するのか?差別と偏見に満ちた心理

議論によって正すのは難しいが…
原田 隆之 プロフィール

最新のデータからわかること

さらに新しい研究として、シブリーとダキット4は、現代パーソナリティ理論のなかで最も支持を集めている「ビッグファイブ・モデル」を用いて、膨大なデータをもとに偏見の心理を分析している。

ビッグファイブ・モデルとは、人間のパーソナリティを5つの次元の組み合わせで説明しようとするもので、その5次元とは「神経症傾向」「外向性」「開放性」「誠実性」「協調性」である。

神経症傾向:ストレスに過敏で、不安や緊張が高い。神経質。 
外向性:興味関心が外の人や物に向けられている。積極性、社交性、陽気さ。
開放性:新しい経験にオープンで、新しいものを取り入れる。好奇心、想像力。
誠実性:真面目で計画的。責任感がある。勤勉、自己規律的。
協調性:利己的でなく、他者のことを思いやれる傾向。やさしさ、共感性。

偏見を抱きやすい人は、開放性と誠実性が低く、神経症傾向が高いという傾向が共通していたという。つまり、因習的で、新しいもの、奇抜なものに対して不寛容で、それは神経質で不安定な彼らの不安や緊張をかきたてるからだ。また、他者に対しても不寛容で、想像力や共感性を欠いている。

これは、膨大な研究データをもとにした「一般的傾向」であり、個別に誰がどうだということではない。マイノリティに対する不寛容や攻撃傾向を示す人のすべてがそうだというわけでもない。

 

しかし、このような理解をすれば、たとえば小川が「LGBT様が論壇の大通りを歩いている風景は私には死ぬほどショックだ、精神的苦痛の巨額の賠償金を払ってから口を利いてくれと言っておく」などと平気で放言できるのも、わかる気がする(心理学的にわかるというだけで、同意しているわけではないので、念のため)。

自分の精神的苦痛を声高に言う一方で、そこには相手の精神的苦痛などを思いやる共感性のかけらも見られない。

また、「(同性婚について)これは全く論外であり、私は頭ごなしに全面否定しておく。結婚は古来、男女間のものだ」などというところは、共感性の欠如だけでなく、因習的で開放性の欠如が如実に表れている。

〔PHOTO〕iStock

偏見に対処するには

いずれにしろ、オルポートが正しいのであれば、このような物言いや傾向は、パーソナリティに根差すものであり、パーソナリティとは安定的な心理や行動の傾向であるから、それを変えることは困難だ。

オルポートはまた、偏見は事実に基づくものではなく、感情的な要素が大きいため、議論によって正すことは難しいとも述べている。

何とも暗澹たる気持ちにさせられるが、シブリーとダキットの論文では、このようなパーソナリティや社会的態度の「原因」となる要因を探究することの重要性が説かれている。そして、それは心理学の重要な使命の1つだろう。

今の心理学は、偏見と闘うにはまだ無力であるかもしれないが、偏見という問題が、深刻な社会病理の1つとして重要な研究テーマであることは間違いない。

しかし、なぜ私はそんな無力な心理学などやっているのか言えば、心理学では醜い人間の心理を探究するだけでなく、それと闘う気高い人々の心理に触れる喜びや感動もあるからだ。

私の専門は犯罪心理学であるため、多くの残虐な犯罪や憎むべき犯罪者ともかかわってきた。しかし、その反面、過去の過ちを悔い改め、更生しようとする人々の強さや美しさに打たれることも多い。また、それを真剣に支える人々の献身的なサポートにも心を動かされる。

今回のケースでいえば、まさに新潮社出版部文芸(文芸書編集部)の人たちの勇気と行動に、光を見た気がする。そして、記事に対する多くの批判の声や反対の動きを見て、勇気づけられ、われわれの社会の健全さにも気づかされた。安心してはいけないが、暗澹となって悲観するのはまだ早いと思う。

【参考文献】
1 Allport G 1954 The nature of prejudice. Addison-Wesley.
2 Adorno TW et al. 1950 The authoritarian personality. Harper.
3 Duckitt J 2001 A dual-process cognitive-motivational theory of ideology and prejudice. Adv Exp Soc Psycol. 33.
4 Sibley CG & Duckitt J 2008 Personality and prejudice: A meta-analysis and theoretical review. Pers Soc Psycol Rev. 12.