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子育てに最悪なのは「超有名企業に勤めるビジネスマン」かもしれない

子どもの愛着形成にとって一番大切なこと
累計28万部突破の『発達障害の子どもたち』『発達障害のいま』の著者で、児童精神科医の杉山登志郎氏が書いた、新しい子育ての本『子育てで一番大切なこと』。そこから、一部を抜粋・編集して紹介。臨床の現場を知り尽くした第一人者が、子育ての基本を提唱します。

少子化の中で、子どもや子育ては国家の大事と表向きは声高に叫ばれているものの、発達障害の増加や子ども虐待の急増、子どもの貧困、いじめや校内暴力など、子育ての大変さばかりが広がっていて、これでは楽しい子育てどころではない。

そんなマイナスの情報ばかりに囲まれている人達に、恐れたり迷ったりする必要はないよ、いくつかのとても大事なことだけ押さえておけば、子どもはどんどん自分で成長をして、しっかり育っていくんだよ、というメッセージを送りたい。

そのためには、どうしたら良いだろう。

 

私はある作戦を取ることにした。

それは全ての内容を対話によって語るということである。

ストーリーは、ミサキという編集者の女性が、定年間際の不機嫌で小太りな児童精神科医を大学の研究室に訪れるところから始まる。

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一番基本的なことって何?

約束の日。時間通りにミサキが研究室に訪れると、すでに杉本教授は深緑の二人がけソファに腰掛けて待っていた。

「君が最初に聞きたいことは、〝子どもの育ちにとって一番基本的なこと〟だったね」

「はい。まずは、基本中の基本をお伺いしたいのです」

「ヒトの子どもは、少なくとも生まれてしばらくの時期は、脆弱な存在であるのは確かだ。全面的なケアが何年も必要だし、中学生になっても親の存在は重要だ。子育ての期間はとても長いと言っていい」

「では、どんな環境を子どもに用意してあげればよい子に育つのでしょうか?」そうミサキが尋ねると、杉本教授はむっとした顔をして「ほら、こんなところがマスコミの悪いところだ。ワンパターンを求める」とつっけんどんに言い放った。

「あのね、環境のみで子どもの性質が決まるわけじゃない。子ども達の持っている、生まれながらの気質、つまり遺伝的な素因で、ある子には良いことが、別の子にとっては悪いこともある」

ミサキは思わず「じゃあ、遺伝子で決まってしまうんですか?そんなの不公平じゃないですか」と詰めよった。

「いや、最近は、これまで考えられていた以上に、遺伝情報というものが生涯変わらないというほど固定的なものじゃないことがはっきりしてきたんだ。つまり、用意されていた遺伝子が、適切な時期に適切な刺激を与えられることでスイッチが入り、次の発達へと展開していくんだよ」

「えっと、先生がおっしゃりたいのはどういうことですか?」

「子育ての基本を君は聞いたけれど、僕が言いたいのはね、〝子育てのスタートは、母親のお腹の中から考えないといけない〟ということなんだ」