百年に一度の発明…ゲノム編集技術「クリスパー特許」の気になる行方

法廷闘争はなぜここまでこじれたのか
小林 雅一 プロフィール

これを受け、今後は(これまでペンディングとなっていた)バークレイ校が2012年5月に出願した特許技術の審査も再開され、いずれは同校にも何らかのクリスパー特許が与えられる。そこでは(バークレイ校、つまりダウドナ氏らにとって)最悪のケースと最良のケースが考えられる。

最悪のケースでは、バークレイ校に与えられるクリスパー特許はあくまで「試験管内に分離されたDNAを狙った箇所で切断(操作)する技術」に対する特許だ。前述の通り、この技術では(農作物の品種改良や医療への応用など)実用面ではほとんど使えないので、特許としての価値は事実上ゼロに近い。

逆に最良のケースでは「(試験管内に分離された場合、あるいはヒトやマウスなど生きた動植物の細胞内を問わず)一般的にDNAを狙った箇所で切断(操作)する技術」に対する特許となる。この場合、バークレイ校に与えられるクリスパー特許は、既にブロード研究所に与えられた特許を包含する形の、より普遍的な基本特許となる。

 

ダウドナ氏らバークレイ校は当然ながら最良のケースとなることを期待している。しかし米国の特許関係者らは、むしろ最悪のケースとなる公算が高いと見ている。

ダウドナ氏らも恐らく、それを薄々感じているので、(既にブロード研究所に与えられた)「ヒトやマウスなど動植物の細胞内にあるDNAを直接操作する技術」としてのクリスパー特許がどうしても欲しかった。だから、これまで特許審査や裁判で負け続けても、諦めずに上訴してきたのだ。

しかし(前述のように)米国では、こちらのクリスパー特許はブロード研究所の手に渡ることで(ほぼ)決した。一連の経緯を振り返ると、2012年の論文発表後にダウドナ教授自身が「この研究成果を真核生物の細胞に応用することに手こずっている」と認めた点は大きい。

それは科学者として現状を報告する率直な発言だが、特許出願の際には仇になった。基礎研究とその商業化の狭間で、現在の科学者が置かれた難しい状況を如実に示している。

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