百年に一度の発明…ゲノム編集技術「クリスパー特許」の気になる行方

法廷闘争はなぜここまでこじれたのか
小林 雅一 プロフィール

特許干渉とは何か?

特許干渉とは、(この場合)バークレイ校とブロード研究所が出願した特許技術は実質的に同じもの(で、互いに干渉する)という意味だ。

もしも再審査で、この訴えが認められれば、(クリスパーの技術開発でも特許出願でも先んじた)バークレイ校にクリスパーの基本特許が与えられ、(2014年に)ブロード研究所に与えられた基本特許は取り消しとなる。

バークレイ校による、この再審査請求が特許商標庁から受理され、2016年1月に同庁の臨時法廷(PTAB)で裁判形式の再審査が開始された。それから1年余りが経過した2017年2月、PTABは「バークレイ校とブロード研究所が各々出願した特許技術は互いに異なる(干渉しない)」とする審判(裁定)を下した。

結果、(2014年に)ブロード研究所に与えられたクリスパーの基本特許は引き続き有効ということになった。つまり特許商標庁は、改めてクリスパーの基本特許をブロード研究所(ジャーン博士ら)に与えたわけだ。

しかしバークレイ校(ダウドナ教授ら)は諦めず、昨年7月に連邦控訴裁に上訴。そして今週、(本稿冒頭で述べたように)連邦控訴裁は昨年2月の特許商標庁による審判を支持する判断を示し、クリスパーの基本特許はブロード研究所のものになることが(ほぼ)決まった。

 

また今回、連邦控訴裁によって「両者のクリスパー技術は異なる」と認定された以上、今後はバークレイ校にも(ブロード研究所に与えられた特許とは別に)クリスパーに関する何らかの特許が与えられることになるが、これについては後述する。

基礎科学の研究成果を特許化

それにしても両者の争いは、何故ここまでこじれてしまったのか?

その一因は、本来「基礎科学」の研究成果を、特許のような「実用技術」に応用する際の綾にある。

そもそも2012年にダウドナ氏らが発表した論文に書かれていたのは、「試験管内に分離された(クラゲの)DNAを、(バクテリアのウイルス攻撃能力を巧妙に応用した技術を使って)狙った箇所で切断(=操作)することができた」とする実験結果だった(これがゲノム編集クリスパーのベースとなる技術だ)。

これに対しジャーン博士ら(ブロード研究所)が開発した技術は、「(試験管内に分離されたDNAではなく)人間やマウスなど生きた動物の細胞内にあるDNAを狙った箇所で切断する技術」だった。

〔PHOTO〕gettyimages

両者を比較すると、特許化するには明らかにジャーン博士らの開発した技術に分がある。

なぜなら「試験管内に分離されたDNA」を操作するだけでは単に科学的な研究成果と見なされ、その先にある産業的用途、たとえば「農畜産物や魚の品種改良」、さらには「医療」などに応用するための実用的な技術としては不十分であるからだ。

逆に、それを成し遂げるためには、どうしても「(ヒトを含め)生きた動植物の細胞内にあるDNA」を直接操作する必要がある。これが、まさにジャーン博士らが開発した技術なのだ。

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