不倫問題で集中砲火を浴びた私が「今」ホスト小説を書いた理由

私もレッテルを貼られている
乙武 洋匡 プロフィール

「障害者なのに」にうんざり

被害者ぶるつもりは微塵もない。叩かれて当然のことであり、繰り返しになるがそのことについて申し開きをするつもりもない。ただ、これまで履かされてきた下駄が、今度は凶器となって襲いかかってきたというだけの話だ。

「障害者なのに」と賞賛され、「障害者なのに」と非難される。正直に言えば、うんざりだ。障害があろうがなかろうが、車椅子に乗っていようがいまいが、私から生み出された結果そのものを直視してほしい。バイアスとか、色眼鏡とか、カテゴライズとか、私の人生につきまとって離れない影法師のような存在を、私はずっと煩わしく、そして忌々しく思ってきた。たとえ他者から「恩恵を受けてきただろう」と冷水を浴びせられたとしても。

 

しかし、いくら私が嘆いてみても、いくら私が叫んでみても、おそらくは生涯この影法師から逃れることはできない。いつか手足が生えてきて、健常者としての人生を生きる。そんなことは起こらない。私は死ぬまで障害者として生きることになる。そうであるかぎり、人々は私を「障害者だ」と認識し、私を「障害者として」評価するだろう。

ならば、すべてを引き受けて生きていくしかない。恐ろしいまでの粘着力で貼りつけられたレッテルをみずから剥がすことができないのならば、そのレッテルとともに生きていくしかない。それを覚悟と呼ぶ人もいれば、あきらめと笑う人もいるだろう。何と言われようとも、そうして生きていくしかない。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

乙武洋匡(Hirotada Ototake)さん(@ototake_official)がシェアした投稿 -

2018年8月21日に開設した乙武氏のインスタグラム(@ototake_official)より。「足がないのにサッカーが好きです」の文言と共に見事なプレーを公開

いろんなレッテルを書きたかった

そんな物語を、描いてみたいと思った。これは、きっと私だけの物語ではないと思ったから。「障害者」というレッテルを「男性」や「女性」、「金持ち」や「貧乏」といった世間に流布するあらゆるレッテルに置き換えれば、それはそのまま誰かの物語になるはずだから。いつのまにか世間から貼られたレッテルに反発しながらも、いつしか自分自身がその呪縛に絡め取られて身動きが取れなくなってしまっている人は、きっと私だけではないはずだと思ったのだ。

だから、「私だけの」物語にはしたくなかった。一人でも多くの読者とこの物語を共有したかった。だから、フィクションという形にした。舞台はホストクラブ。私にとっては、なつかしい、なじみのある場所だ。

私の親友はホストクラブの経営者。二十代の頃は、よく彼の店で飲んでいた。親友のバースデーイベントがあるときなどは人手が足りなくなるため、黒いスーツを借りて“臨時ホスト”として接客したこともあった。従業員達とも仲良くなり、一緒に旅をしたこともあった。親交を深めるなかで彼らの身の上話を聞くこともあったが、「ホストに憧れてこの業界に入りました」という青年は一人もいなかった

気づいたら歌舞伎町に流れついていました

ホストくらいにしかなれなかったんですよ

国籍や家庭環境など、彼らにも多種多様なレッテルに悩み苦しみ、人生を翻弄されてきた過去があった。それらのレッテルに打ちのめされる者もいれば、いまだ抗おうとする者、すでに受け入れて前に進もうとする者など、さまざまいた。だから、今回の物語を構想したとき、舞台をホストクラブに決めたのは私にとって自然なことだった。

タイトルの『車輪の上』は、もちろんヘルマン・ヘッセの名著『車輪の下』に端を発している。『車輪の下』の主人公・ハンスは神学校に通うエリート。周囲の期待を一身に集めていたが、やがてそうした状況に心身ともに疲弊させていく。いわば、レッテルに苦しみ、身を破滅させていった一人だ。

今作の主人公・シゲノブは、車椅子という“車輪の上”でどんな悩みを抱え、どんな答えを出すのか。あなたの友人を見守るような気持ちで読み進めていただければ幸いである。

乙武洋匡さんのサイン会が開催されます。
10月16日(火)19時~
三省堂書店池袋本店書籍館4階 イベントスペース「Reading Together」にて。
お申し込みは、「『車輪の上』刊行記念 乙武洋匡さんサイン会特設サイト」までどうぞ→http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/events/3689

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