樹木希林さんが晩年語っていた「死について思うこと」

自分の人生、上出来だと思っています
週刊現代 プロフィール

夫に出会って

最初にがんに罹ったのは'04年です。その時は乳がんで、摘出手術を受けて良くなったのだけど、その数年後に、13ヵ所に転移が見つかりました。

でもね、今はがんになって本当によかったと思っているんです。自分の体と向き合うようになりましたから。それから、これはちょっと奇妙な話なのだけど……'04年の年末に、タイのプーケット島への家族旅行を予定していたんです。

でも9月にがんの告知を受けて、そんなところに行く気分じゃないということで、キャンセルしたの。そうしたら年末にスマトラ島沖大地震が起きた。予定通り行っていたら、大津波に巻き込まれていたでしょうね。

私だけ助かって孫は流されてしまうなんて苦しい余生を想像すると、がんになって幸いと心底思ったの。それに、私はどのみち死ぬ運命なのだから、それだったらベッドの上で死ねるだけまだマシじゃないのってね

 

そう語ったあと、樹木はいたずらっぽい顔で、もう一つがんになって良かったと思う理由があるとつけ加えた。

内田がね、ここ最近、会うたびに『体調が悪い』ってうるさいの。でも私が『それは辛いわねえ、わかるわよ。私なんか全身がんだもの』って言うと、ピタッと黙るんです。そんな効果もあるのよ

撮影/菊池修

「内田」とはもちろん、夫でロック歌手の内田裕也氏だ。結婚したのは'73年。その壮絶な結婚生活についてはあまりにも有名だろう。

DVが酷くて、こっちもやり返すものだから大変だったのよ。近所の金物屋で『なんでオタクは包丁ばかり買いに来るの?』って訊かれたこともあったわね(笑)。

世間の人は私をDVの被害者だと思っているかもしれませんが、内田には感謝しているんです。若い頃の私は、裡にマグマみたいな激しい感情や自我を抱えていて、『こんな状態でどうやって生きて行けばいいんだろう』と戸惑っていた。

そんな時、更に激しい自我を持つ内田に出会ったのね。彼と一緒にいると、自分は意外とまともなんじゃないかと、楽な気持ちになれた。だから、実は救われたのは私のほうなんです。

そりゃ若い頃は大変だったわよ。でも時が経って年を取るにつれ、ぶつかってばかりはいられなくなるし、それにちょうどいい距離感というのがわかってくる。それまでにちょっと時間がかかりすぎたかもしれないけどね(笑)