『PRODUCE 48』は“JK-POP”の生みの親になるかもしれない

日本のアイドルに足りなかったこと
松谷 創一郎 プロフィール

「会いに行けるアイドル」の功罪

「48グループは特殊で、歌が上手いから人気があるとか、ダンスが上手だから人気があるというわけではないので──」(宮脇咲良)

「自分が良く評価されてもなんでかわからないし、自信もどんどん失われていきました」(高橋朱里)

『PRODUCE 48』の最終回、冒頭でデビュー候補20人に残ったふたりがこのような発言をしている。

周知のように、48グループが展開してきた「会いに行けるアイドル」は、歌やダンスのパフォーマンスの質よりもコミュニケーションやパーソナリティが必要とされる。

だが、主要メンバーでもあるふたりが、韓国の番組でそうした48グループのありかたを疑問視し、それとは異なる評価基準のK-POPにチャレンジした。これはかなり象徴的な事態だと言える。

しかも宮脇は、その難関を突破してグローバルアイドルグループ・IZ*ONEの一員としてデビューすることが決まった。これから彼女は韓国と日本、さらにアジア全域で活動する。

過去に同シリーズから生まれたI.O.IとWANNA ONEのことを考えると、大ヒットすることは確実だ。しかも今回は契約期間が2年半と長く、TWICEに続いて日韓混成の大ヒットガールズグループが誕生することになる。

トップアイドルである宮脇が、プライドを打ち砕かれながらもトレーニングに耐えてその座を掴み取ったことは、今後の日本のアイドルシーンにかなりの影響を及ぼす可能性がある。

彼女がこれから見せるはずの質の高いパフォーマンスは、日本に浸透している「アイドル≒未熟な女の子」という概念を覆すからだ。加えて、これまでなんとなしに一線が引かれてきた日本と韓国のアイドルファンとの境界も曖昧にしていくだろう。

さらに話を拡げれば、J-POPのあり方、とくにビジネスモデルにも大きな影響を与える可能性がある。そのとき確認すべき必要があるのは、この企画を成立させたMnetの戦略だ。

 

Mnetのビジネスモデルと戦略

1995年に誕生したMnetは、韓国版MTVと呼べる音楽専門チャンネルだ。ケーブルテレビではあるが、韓国では多くの世帯が加入している。

運営するのは、食品関連産業を軸とするCJ社のメディア・コンテンツ部門であるCJ E&Mだ。同社は、韓国最大手の映画製作&配給と興行会社(シネコン)も手がけており、エンタテインメント産業にかなり力を入れていることで知られる。

音楽事業では、同チャンネルで『M COUNTDOWN』など多くの人気番組を手がけ、配信サイト・Mnet.comも運営している。

また年末には、毎年「Mnetアジアミュージックアワード(MAMA)」を開催している。これはK-POPを中心とするアジア全体の音楽祭で、開催地は毎年異なっている。今年は韓国・日本(さいたまスーパーアリーナ)・香港で開催予定だ。『PRODUCE 48』も、昨年のMAMAで発表された。

Mnetは日本のスカパー!にもチャンネルがあるが、スマートフォンのアプリやPCからも視聴可能(有料)だ。多くのコンテンツが字幕付きで公開されており、『PRODUCE 48』も韓国と同時放送され、タイムラグなく日本でも多くのひとが視聴した。

最近ではBTS(防弾少年団)やBLACKPINKの活躍など、K-POPは時間をかけて順調にグローバルに存在感を高めている。その際、YouTubeの積極活用もあったが、Mnetはメディアそれ自体が積極的に海外進出をしてK-POPの拡大に寄与してきた。

CJは映画興行事業でも海外進出に積極的で、傘下のシネコンであるCGVでは中国で5番目の規模であり、ベトナムではスクリーン数のシェアはもっとも大きい。

映画にしろ音楽にしろ、インフラも整備することで自国コンテンツの流通をさせている。ワーナーやディズニー、あるいはソニーのように、アメリカや日本のコンテンツ企業の手法に倣ったところが大きい。

そんなMnetが『PRODUCE 48』で日本の視聴者に見せたのは、K-POPが多大なコストをかけて、パフォーマンスの質を向上させていることだ。

各事務所が練習生を多く抱え、時間をかけてトレーニングしていることは知られていたが、その実例をリアリティ番組というフォーマットで伝えてきた。

この連載でも具体的に見てきたが、グループ評価から始まり、ポジション評価、コンセプト評価、デビュー評価と続くその展開は、非常にインパクトがあるのと同時に、きわめて説得力の高い内容だった。

単に若者を過酷な環境において見世物にするようなことはなく、本人たちにとって将来の糧となるような指導を施していたからだ。

彼女たちを指導するトレーナーたちの負担も、そうとう大きかったはずだ。たとえば4回行われた各評価では、FTISLANDのイ・ホンギや元SISTARのソユなどのトレーナーが、練習段階で全グループのパフォーマンスを複数回チェックしている。

番組ではそれほど尺は割かれなかったが、実際これはかなりの時間と労力が費やされていると考えられる。とくにいまも一線で活躍するイ・ホンギがみずからの活動時間を割き、発声練習のような基礎から丁寧に指導する姿には非常に感心してしまった。

彼がそこまでやるのは、おそらく後進を指導することがK-POP全体に寄与することになると信じているからだろう。

また各評価バトルの発表も、すべて観客を集めた状態で大きな会場を借りて行われている。おそらく、それなりの予算がかけられているはずだ。

さらに番組も毎週ほぼ2時間半もの長さで(入念に観る立場としてはちょっと疲れたが)、おまけに細かくテロップを入れるなど編集も日本のバラエティ番組と比べるとずっと複雑だ。

つまり、出演者は全員ガチで、番組構成も圧倒的に豪華な内容だった。