うつ・不安障害の人を職人に!京都・伝統工芸社長の「挑戦」

職人育成は健常者も障害者も同じ
なかの かおり プロフィール

健常者でも障害者でも適性がある人を雇う

障害者を雇用するきっかけは何だったのだろうか。「和ろうそくを作れるのは日本で10件ぐらいしかない。以前からの職人は高齢で辞めてしまい、収入が厳しくて人材がいないのが現状。私たちのところには、芸術系の学校を出た若い絵師が2人います。障害者だから特別という考えはなく、適性がある人が10人に1人いるなら、障害のある人もその1人として雇っているだけです」

田川さんの身近には、もともとハンディを持った人がいた。父が事故で寝たきりになり10年間、自宅で介護していた。付き添いで病院に行くと、いろいろな人と出会った。「例えば半身が不自由でも仕事はできると思いました。付き添いが必要な人は、一緒に来てもらってもいい」

2016年、京都市による障害者雇用の推進事業を知って利用した。アドバイザーが店の仕事を一通り見て、「絵付けをやってもらったらいいのでは」と助言があった。田川さんが道具や材料費を負担し、絵付けの体験会を企画。障害者向けのワークショップを3回やってみて、延べ30人から40人が参加した。オーディションのような機会だ。

絵や、その人自身のやる気を見て、候補者に1週間ほど通ってもらった。中には体調が優れず、通勤が負担になる人も出てきた。田川さんは「健常者では考えられない、来られない理由もあると知った。一方で福祉施設の職員と交流すると、障害者を大事にしすぎているようにも感じます」と語る。

「絵付けの仕事は付き添いありでも、在宅でもいいんですよ。今回は、絵が上手になるかなということと、一緒に働く人とのそりもよく、通えるAさんに決まりました。今は育てている時期で、仕上がりに時間はかかる。商売にはなっていないけれど、何年か修行すれば見込みはあると思う。時給は少ないですが最低賃金以上は払っていて、これは技術料として健常者でも同じです。将来は独立してフリーで働く道もあると思います」

 

子どもの頃から不登校だった

中村ローソクの2階で、先輩の絵師と一緒に絵付け中のAさんに話を聞いた。「子どもの頃から不登校で、学校になじめなかった。今の主治医に、その頃からうつ病だったのではないかと言われ、社会不安障害もあります。高校を中退してバイトをしたり、引きこもったり、精神科の作業所に通ったりしました。少し前に1年間、発達障害や精神障害のある人のための作業所で、スプーン・フォークなどの木工製品を作っていました」

Aさんは中村ローソクの絵付け体験会を知り、チャレンジしようと思った。もともと絵を描くのに興味があった。雇用が決まり、最初はカーネーションを描いた。先輩がある程度描いたものを、仕上げる形だ。次は見本を見ながら桜を一から描いてみた。次は藤、菊、蓮と少しずつステップアップした。筆者が訪ねた時は、繊細な蓮のデザインを描いていた。6本を並行して、3日かかるそうだ。

今は週3回、午前10時から午後4時の勤務。お昼休憩のほかは黙々と描いている。「絵ができあがると楽しい。電車で通うのは最初は疲れたけど慣れました。体調は、薬を飲んで落ち着いています。仕事に続けて来られるというのが、自分にとっては大きいアルバイトだったら短期で終わってしまうので、しんどい。こつこつと続けて一人前になりたいです」とAさん。

先輩の絵師に聞くと、「戸惑いはなかったです。研修で教える時も、きちんとコミュニケーションが取れました」「Aさんは、一生懸命やってはるから」と評判はいい。