「日本人」とは誰か?大坂なおみ選手についての雑な議論に欠けた視点

新たな問いかけ、そして学び
井戸 まさえ プロフィール

すでにある二重国籍の特例

「国籍」の枠組みを議論することは、主権者たる「国民」の範囲を決めることでもある。

また「重国籍」への対応は他国との外交上の関係や安全保障にもつながる政治的に広がりのある課題だからこそ、この問題は国会議員こそ積極的に発言し、議論していくべきだ。立法府しか法改正はできないので、なおのことである。

しかし、そうした議論はなかなか聞かれない。

なぜか。改正で益を得る日本人が外国に居住する場合も多く、対象者が可視化され難く、取り組んでも「票」に直結しないからである。

今回の大坂選手の国籍に関する国会議員の発言は少ない。その中で、日本維新の会の足立康史衆議院議員がTwitterで以下のような発言をしている。

「ノーベル賞、オリンピック等で快挙を成し遂げた日本国民には、二重国籍の特例を認めたらどうかな」

一見「トンデモ案」のようだが、実は日本国籍を取得する帰化の要件の中に上記と近い規定はすでにある。

「国籍法第九条 日本に特別の功労のある外国人については、法務大臣は、第五条第一項の規定にかかわらず、国会の承認を得て、その帰化を許可することができる」

これはいわゆる「大帰化」と呼ばれるもので、普通帰化や特別帰化の要件を満たさないものの、日本に特別の功労のある外国人に対して国会の承認を得て日本国籍を認めるといったものだ。

「大帰化」の特徴は、本人の意志の有無によらず、国会が一方的に付与するというところだ。つまり場合によっては当事者が望んでいないのに日本国籍が付与されるのだ。だからこそ、本来持っている国籍を離脱する義務はない。つまり堂々と「二重国籍を謳歌できる」ということなのだ。

これが「大帰化」を称して「法的効力を持つ名誉市民権」と言う由縁なのだが、1950年、現行の国籍法施行以降で認められた例はない。

 

ちなみに2012年、フィギュアスケートのペアのケースで、日本女性選手のパートナーがカナダ国籍だったために双方が同国籍でなければオリンピックに出ることができないという問題が持ち上がり、スポーツ議員連盟(麻生太郎会長)総会で議論され、日本スケート連盟会長の橋本聖子参議院議員がこの「大帰化」を適用できないかと主張したものの、反対意見が多く、不発に終わっている。

私自身はいかにも恣意的に運用されそうな「特例」に反対だし、差別を作るようなこの規定が法律として残っていることに疑問を持つ。

だからこそこれまで一度も実行されて来なかったのだろうが、帰化や二重国籍の「特例」を作るよりも、現在行なわれている事実上の運用に沿って二重国籍を容認する改正をすればよいと思う。

さまざま懸念されるところに対してどう答えられる中身にするか、まさに「政治的技術」が求めているのである。