「ヘビが怖い!」の恐怖心が霊長類の進化に大きく関わっていた

酒席で絶対ウケるおもしろ雑学 蛇編
齋藤 海仁 プロフィール

ヘビが繁栄したのは、哺乳類をエサにしたおかげ

毒ヘビと無毒のヘビの獲物の殺し方の違いはわかった。では、そもそもヘビとはどういう生きものなのか。知れば知るほど気になってきた。

そのへんのところは「資料館」で詳しく展示、解説されていた。

 

で、ヘビとはいったい何者なのか。

手足がなくてくねくね這い回る爬虫類?

いや、その定義では不足らしい。アシナシトカゲのようにヘビそっくりの手足のないトカゲもいるし、実は足のあるヘビの化石もけっこうある。つまり、足がなくなることはヘビにとって一番重要なことではない。

ヘビとトカゲのいちばんの違いは、脳の保護と獲物の「丸飲み」だという。

トカゲの脳の保護はいい加減で、上アゴと下アゴが固定されていて、獲物を噛みちぎれる。対して、ヘビの脳は骨でしっかり包まれていて、アゴをかなり自由に動かせるが、獲物は噛みちぎれない。どういうことかというと、ヘビの骨格は獲物の丸飲みに適した造りになっているのである。これがヘビの一番の特徴で、おそらく小型の哺乳類を丸飲みするところから進化が始まったからだろうとのこと。

現在知られている最古のヘビの化石は1億3500万年ほど前のもの。当時の気候は温暖で、恐竜を含めた大型爬虫類の全盛期であり、哺乳類はまだマイナーだった。ヘビが餌とする小型哺乳類の数も少なく、ヘビ自体もマイナーな存在だったに違いない。

状況を一変させたのは約6500万年前に起きた小惑星の衝突である。この大惨事を境に(鳥以外の)恐竜は絶滅し、地球はいったん冷えて爬虫類から哺乳類の時代に突入する。

爬虫類のヘビもそのあおりを食らいそうなものだが、しかし、小型哺乳類を餌にしていたことが幸いした。現在、哺乳類の数は4000種強。そのうちの半数以上がネズミ目で、約4分の1がコウモリ目だ。すなわち、大半が小型種ということ。ヘビにとっていまはまさにおいしい状況である。

興味深いことに、ヘビが霊長類の進化に大きな影響を与えたという非常に面白い話もある。

他の哺乳類と比べると、霊長類は視覚が優れ、脳が大きいという特徴がある。その理由として、従来は霊長類が“手近な果物や昆虫など”に手を伸ばしてつかんできたためと言われていた。

ところが、最近の脳研究によって、手を伸ばしてつかむことと優れた視覚システムにはなんの関係もないことが明らかになってきたという。

そこでカリフォルニア大学のイズベル教授が、霊長類のこのような特徴は、“視野の下のほうをゆっくりと這うヘビ”をいち早く発見し、身を守るために進化したという仮説を発表した。

なかでもぼくが個人的に一番興味を持ったのは、蠢(うごめ)く菱形のパターンや、やはりくねくねと動く竿状のもの(まるっきりヘビだ!)に反応する細胞が哺乳類の脳にあり、それが脳の“恐怖モジュール”と密接に結びついているという点である。

恐怖モジュールは、捕食者から逃れるために初期の哺乳類が発達させたシステムで、これが発動すると、瞳孔が拡大し、心拍数が上がり、さらには脳へのエネルギーの供給が一気に増える。いわば厳戒態勢だ。

この事実はヘビをまったく見たことのない実験室育ちのサルが、ヘビへの恐怖はいとも簡単に学習するのに、他のものに対しては覚えが悪いという有名な心理学の実験結果とも一致する。

この仮説によれば、ヘビへの恐怖はあらかじめ霊長類の脳内にセットされているわけで、生理的なヘビ嫌いにはこんな裏付けがあるのかもしれない。

そういえば、一時バズった動画に「キュウリを怖がるネコ」というのがあったっけ。あの説明でもキュウリ=ヘビ説というのがあったように、哺乳類にはそもそもヘビへの恐怖が脳に植え付けられていてもおかしくはないだろう。

とにもかくにも、得体の知れない恐怖は畏怖や崇拝につながる。おまけにヘビは定期的に脱皮するし、男性器の形にも似ているから、なおさら死と再生というイメージと結びつきやすいのだろう。ヘビが神話や宗教によく登場するのはもっともである。