日本中の会社で経理不足…実はいま「簿記3級」が驚くほど価値を持つ

AIにも置き換えられにくいんです
出口 知史 プロフィール

特に中小企業では会社独自の処理作法や経営者との阿吽の呼吸が不可欠です。経営者とすれば、ずっと同じ人に経理をやってもらうのが理想なのも理解できるでしょう。

それは裏を返すと、経理担当の側からすれば、企業から引き止められやすく、他社には入りにくく、転職のハードルが高いということにもなります。結果的に一つの会社に長期間勤めるケースがとても多くなります。

それはそれで労使共にメリットのあることなのですが、問題は実務を担ってきた人たちが、世代交代を迎えるタイミングになってきたことです。経営者の高齢化に伴う事業承継問題は話題になっていますが、その陰で「二人三脚」でやっていた経理人材も同様に高齢化して、労働市場から退場するケースが増えてきました。

ところが、いざ後継者を探そうと思っても、なかなか適当な人材が見つかりません。そうした事態が今起きています。

 

今や経理分野で幅広い経験のある人材は希少価値で、良い条件を選べます。雇う側からしたら、「頑張ります」といってくれる人なら、経験量が少なくても、人柄や意欲を評価してその人材を採用し、現場で学んでいってもらう方が良いと考え始めました。

ただし、本当に未経験者が手ぶらでやって来て「頑張ります!」と言っても難しいでしょう。本気の証として、そして基礎知識として簿記3級を取っておくことで、立派に候補者の1人になれます。

簿記の資格にもいろいろありますが、3級の合格率は50%前後で、中学生や高校生でもたくさん受かっています。数ヶ月頑張って真面目に勉強すれば、それほど難しいものではありません。しかし、資格を取った瞬間に、就業確率が倍以上高まるエントリーチケットにはなる計算です。

後は門を叩く数を増やして、自分なりの価値観に基づいて選んでいけばいいでしょう。シングルマザーでしたら月に1度の経理処理が集中する数日だけ、子供の面倒を見てもらうために親や遅くまで運営している保育園を見つけておくなど、働ける環境を手当する必要はありますが。

AIにも置き換えられにくい

しかし、賢明な読者はこう思うかも知れません。

経理の仕事は数字処理の色合いが濃いために、「AIの発展に伴って消えていく職業」であり、「近い将来に大失業が起こる」のではないか。

しかし、実態としてはそうなりにくいでしょう。世の中の全てがキャッシュレスになって自動処理しやすいインフラになったとしても、なかなか人手いらずにはならないと著者は見ています。

例えば、経費精算の承認は上司と経理が行うのが一般的です。ただ、経費の「正当性」はなかなか判断が難しく、機械的に一律に処理することはできません。

直接部門の長の考え方と、経理の考え方がズレていることはままあることで、どっちが正しいのかは、会社として総合的に判断されることです。

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なかには意図的に、本来は認められない経費を申請する例もあるでしょうが、そうした不正を見抜くためには、申請者の悪意を理解していなければなりません。それは必ずしも行動パターンに置き換えられて表面化しているものではなく、脳味噌の中を覗くようなものです。そこまで突っ込んで推測していくのには、人間の深い感情も理解できなければなりません。

結果的に、「誰からの申請か」が、実効性ある判断基準になっている会社が多いのではないしょうか。これはAIが職場に普及したとしても当分判断は出来ないでしょう。