大災害で家を失う前に、絶対知っておきたい4つの制度

「災害復興法学」で考える住宅ローン
岡本 正

ガイドラインの法律化が急務

金融機関は、被災者が積極的に自然災害債務整理ガイドラインの利用を求めない場合は、制度をあえて使わず、現在の財産、収入、あるいは義援金や被災者生活再建支援金などを元手に、ローンの一部条件変更(リスケジュール)によって対応してしまうことがしばしばである。

そのリスケジュールは災害から1~2ヵ月のうちに相当数が行われてしまう傾向にある。リスケジュールをいったんしてしまうと、その後自然災害債務整理ガイドラインの存在を知っても、被災者個人があらためて交渉のテーブルにつくということは、精神的にも肉体的にも相当ハードルが高くなることは想像がつくだろう。

結局、使えるはずのガイドラインを使わないで、ローンを払い続ける現象が起きてしまう。従って、発災直後は、いったんリスケジュールをしないようにし、自然災害債務整理ガイドラインの条件に当てはまるかどうかを必ずチェックするということが不可欠になるはずだ。しかし、現行制度にはそのようなことを金融機関に課す法的根拠はない。

内閣府中央防災会議では、首都直下地震では60万棟以上、南海トラフ地震では、200万棟以上の住宅が、全壊などの被害をうけると試算している。住宅ローンの支払いができなくなる被災者も膨大な数になるだろう。

かつて海だった埋立地に高層マンションが立ち並ぶ東京。大地震で自宅が水没、倒壊しない保証はまったくない photo iSTOCK

これらの課題を解決するには自然災害債務整理ガイドラインを法律へと格上げする必要がある。法律になることで、まずは国の所管省庁が責任をもって、被災者への利用を促し、制度周知を徹底すること、そして拙速なリスケジュールにいったんストップをかける、などが期待されるのである。

「災害復興法学」で思いを未来へつなぐ

被災者支援のしくみは法制度に基づいている。ところが、学校でも、会社でも、家庭でも、弁護士でも、公務員でも、それらの法律に触れることはほぼなかった。今こそ、最低限知っておきたい生活再建の制度を学ぶプログラムを、防災教育として行うことが必要ではないか。「知識のソナエ」が必要なのだ。

 

加えて、自然災害被災者債務整理ガイドラインのように、被災者の涙の声が起点となり出来上がった制度がある。新しい仕組みや法律を作り続けることは、まさに次の災害への備えであり、防災・減災社会、あるいはレジリエンスある社会をつくることに他ならない。

この思いを実現しようと創設したのが「災害復興法学」だ。国への出向経験や日弁連での復興支援活動の実績も役立った。

災害復興法学は、大きく分けて次のようなことを目指している。

1)法律相談の事例から、被災者のニーズをあつめ傾向や課題を分析する

2)既存の制度や法律の課題を見つけて、法改正などの政策提言を実施する

3)将来の災害に備えて、新たな制度が生まれる過程を記録し政策の手法を伝承する

4)災害時にそなえて、直後に危険を回避するだけではなく、災害後の「生活再建制度の知識」を習得するための防災教育をおこなう

災害復興法学が、大学や企業での授業や講座としてだけではなく、家族や、地域や、そして未来の子供たちのための「生き抜く知恵」となることを願ってやまない。

岡本正 TADASHI OKAMOTO
1979年生まれ。弁護士。博士(法学)。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2003年弁護士登録(第一東京弁護士会)。銀座パートナーズ法律事務所パートナー。2009年から2017年まで内閣府行政刷新会議上席政策調査員及び文部科学省原子力損害賠償紛争解決センター総括主任調査官として出向。経験を活かし新しい防災教育「災害復興法学」を創設し、慶應義塾大学他で教鞭をとる。著書に『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会)、『災害復興法学Ⅱ』(同)、『災害復興法学の体系:リーガル・ニーズと復興政策の軌跡』(勁草書房)等がある。