大災害で家を失う前に、絶対知っておきたい4つの制度

「災害復興法学」で考える住宅ローン
岡本 正

東日本大震災直後の無料法律相談

図は、東日本大震災の津波被害のあった宮城県沿岸部の95か所の避難所で集中実施された約1000件の弁護士による無料法律相談事例の分析結果だ。

最も高いニーズは「震災関連法令」であり全体の3割以上となった。具体的には、被災者が受けることができる公的な支援には何があるのか、ということを情報提供していく相談である。

東日本大震災における津波被災地に限らず、他の地域や、その後の熊本地震等でも非常に目立つ相談カテゴリーとなっている。

そして、その次に目をひくのが、「住宅ローン」などの支払いが困難になったという被災者の相談だ。震災前は問題なく支払ってきたローンが急に支払えなくなるという相談が、全体相談の約2割にも及んでいたことには、当時絶句せざるを得なかった。

このデータが、住宅ローンを減免する新しい制度、「個人債務者の債務整理に関するガイドライン」成立に大きく寄与していく。

被災者の多様な生の「声」をどうすれば世に伝えられるか。手がかりとなったのは、日本弁護士連合会や各弁護士会が、法テラスなどと協力して実施していた「無料法律相談」の報告書だった。

相談の種類ごとに分類し、都市部、沿岸部、地震、津波、各地の被災態様ごとに声を明確にすれば、どのような支援が必要か数値で示すことができるはずだ。東日本大震災直後に日弁連へそのことを提言し、筆者は相談事例のデータベース化の責任者となった。

被災地の声の分析結果を順次公表し、1年分をまとめるころには、4万件を超えるデータが集まっていた。

4万件のデータを概観すると、物理的な被害状況を反映するかのように、被災者の生活再建のニーズも浮かび上がってくるということが明確になった。

例えば、津波被災地のように、多くの住まいや事業所が失われた地域では、事業や住宅のローンの支払が困難になったという相談が目立つ。

一方で、都市部などの地震被害の地域では、オフィスやマンションなどの賃貸物件が多いことから、オーナーと賃借人の間で、修繕費用や退去の是非を巡る紛争が頻発する傾向にあることもわかった。

住宅街でも塀や瓦屋根の損壊により、近隣住家を損壊させた事例が多発したことから、近隣同士の損害賠償紛争が無数に起きていた。

これらの傾向は、熊本地震でも同様であり、被災者の声を予測し、支援の在り方を事前に考えるべきことが痛感された。

瓦屋根の家が多数崩壊した2016年の熊本地震 photo Getty Images
 

ローンに苦しむ被災者の声を視覚化

東日本大震災の当時は、財産を失ってしまったにもかかわらず住宅ローン等が残り、ローンが支払えなくなったという声に対しては、法律上の破産手続しかとりうる手段がなかった。

ところが、前述のように破産手続きは、信用情報登録されて新たな借り入れができなくなるので、必ずしもよい解決策にならない。このため多くの被災者が、先の見えない苦しみを抱いていた。

この状況を打開したのは、被災者の声の分析結果だった。弁護士たちは、被災者の声を視覚的に明らかにし、支援すべき対象者が膨大であること、新しい仕組みが必要であることを、政府、金融機関、国会議員、メディア等へ訴えた。

産学官の関係者が一同に会して議論が重ねられ、2011年7月、ついに「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」、通称「被災ローン減免制度」が誕生した。

被災ローン減免制度は、先に述べた「自然災害被災者債務整理ガイドライン」の前身の制度で、手続や効果は同じものだ。しかし、肝心の制度運用機関である「一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会」側の相談体制の不備や周知不足により、多くの被災者が制度にたどり着くことができなかった。

また、あやまって手続きから除外される被災者も後を絶たなかった。結局、当初は1万件以上の利用を見込んでいながら、東日本大震災後7年のうちに約1400件しか利用されていない。

その後も議論は続けられ、2015年12月には、ようやく冒頭に紹介した災害救助法が適用された自然災害に共通して利用できる「自然災害債務整理ガイドライン」が誕生する。

弁護士らが政策提言を継続した結果、東日本大震災限りであった「個人債務者の私的整理にガイドライン」が恒久的制度に昇華されたのだ。

災害後は、政府や自治体から膨大な「支援情報」が発信される。あふれる情報の洪水のなかから、自分や家族にとって必要な情報だけをピックアップし、かつ適時に窓口申請していくことは相当困難だ。

ほしい情報を検索したくても、検索するキーワードがわからないのでは、正しい情報にたどりつけない。例えば、2016年の熊本地震では検索キーワードとして「住宅ローン」が増加したというデータがあるが、だからといって、必ずしも被災ローン減免制度にたどりついていたわけではない。

そこで、筆者は「これだけはあらかじめ知っておいてほしい」と思える「生活再建」に必須な法制度を抽出し、事前の「知識のソナエ」を目指す防災研修プログラムを作り、実施し始めた。

日弁連が公表している東日本大震災と熊本地震をあわせた5万2000件以上の相談分析結果や、広島弁護士会が公表している2014年の広島土砂災害の250件の相談分析結果がベースになっている。